このWEBコラムでは、蛇にまつわる日本の昔話を「トークノベル形式のものがたり」でお届けしています。人物の挿絵や状況描写イラストはイメージです。また、登場人物の台詞を現代的な言葉遣いに変更したり、制作者の解釈で付け足したりして再話しています。元のお話の意図を失わないよう意識しながらの制作に努めていますが、そういった営為は「解釈」ぬきには行えないことをご了承ください。利用した出典は明記しておりますので、気になる方はご活用ください。
※このコンテンツは、イラストや動画や、動くエフェクトが使用されています。通信環境の良いところでご覧になられることをおすすめいたします。また、アニメーションの影響で、まれにめまいを覚えられる方や気分が悪くなられる方もいらっしゃいます。体の異変を感じた場合にはすぐ視聴を休止し、安静になさってください。
はじまり、はじまり…
「龍と娘:沼の主」物語
太岳院の前には清水が湧き出る沼があり、一匹の大きな龍が棲んでいました。
龍は人の話し声や歌声が大好きでした。
ああ、今日も人間たちの楽そうな声が聞こえる
あれれ!
なんだか沼が大きく波打ってる!魚かな?
! ! !
いかん、つい浅瀬まで出すぎてしまった!この醜い姿を人間に見られるのは嫌だ……!
しかし、龍は姿を見られることをひどく怖れていました。
へんな噂が立ってはかなわんしな…もう昼間に水面に上がってくるのはやめるとするか。
なので、夜な夜な岸辺に近寄っては聞き耳を立てることにしました。
さて、沼の近くの一軒家には、美しい一人の娘がおりました。
娘は夜になると惹かれるように沼へ行き、月明かりに自分の影を沼に映しては櫛で髪を梳き、美しい歌声で歌っていました。
~♪~♪
今夜も来ているのだな。いい声だ…
沼の龍も毎夜この歌声に聞き惚れて、ついつい水面近くまで上がってきてしまいました。
ところがある夜のこと、娘ははずみで沼に落ち、着物を濡らしてしまいました。
\ばしゃん!/
この水音に驚いた龍は、水面に姿を現してしまったのでした。
! ! !
! 蛇…いえ、龍!?
見られてしまった、おのが姿…!
龍はそうとつぶやくと、一転して荒々しく娘を背に乗せ、沼の底へ身を隠してしまいました。
娘がいなくなったことに気がついた村人たちは、松明をかかげて娘を捜しました。
けれど、見つかったのは浮んだ娘の赤い鼻緒の草履のみでした。
それから数日。
一天にわかにかき曇り、物凄い大雨となりました。
沼は増水し、とうとう土手をこえると室川へと流れ込んできました。
この時、大水とともに龍が姿を現し、その背に娘が乗っているのが見えました。
龍は室川を下っていき、その尻尾の触れたところを今、尾尻と言うのです。
おしまい、おしまい。
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補足や資料
「室川」を中心に埋め込んでみました。
元の採集場所や文献 | 『秦野の昔ばなし』(神奈川新聞):「龍と娘」 |
制作者が参考にした文献 | 日本の竜蛇譚 神奈川県秦野市今泉 龍と娘(龍学) |
このお話は「龍学」さんの神奈川新聞『秦野の昔ばなし』より要約 を基軸に制作いたしました。当コンテンツ制作者は元資料の入手ができませんでした。「龍学」さんの記事では、秦野で語られた二つのお話しの違いや、地形から読み取れるこのお話が生み出された背景の考察なども充実していますので、ぜひ読んでみてください。
「異類婚姻譚」「蛇聟(蛇婿)」のタグをつけていますが、これはこのお話が「龍学」さんのウェブサイトのほうで『蛇聟譚』に分類されていることからこのタグをつけました。このお話しに登場する龍と娘が婚姻した記述はなく、また性別というものが男女という分類で適応できるかどうか、…といった解釈については、読者のお一人お一人にお任せしたいと思います。