蛇女房-人間に嫁入りしたが正体を見あらわされて目玉を遺して去った女蛇

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このWEBコラムでは、蛇にまつわる日本の昔話を「トークノベル形式のものがたり」でお届けしています。人物の挿絵や状況描写イラストはイメージです。また、登場人物の台詞を現代的な言葉遣いに変更したり、制作者の解釈で付け足したりして再話しています。元のお話の意図を失わないよう意識しながらの制作に努めていますが、そういった営為は「解釈」ぬきには行えないことをご了承ください。利用した出典は明記しておりますので、気になる方はご活用ください。

※このコンテンツは、イラストや動画や、動くエフェクトが使用されています。通信環境の良いところでご覧になられることをおすすめいたします。また、アニメーションの影響で、まれにめまいを覚えられる方や気分が悪くなられる方もいらっしゃいます。体の異変を感じた場合にはすぐ視聴を休止し、安静になさってください。

はじまり、はじまり…

「蛇の玉」物語

むかし、近江の国の三井寺に、毎日お参りに来て必ず茶店で休んでいく、若い美しい女の人がおりました。

美しい女性

こんにちは。今日もお団子とお茶をくださいな

それを見た近所の酒屋の息子が、

酒屋の息子

あの人に嫁になってほしいんだ。女将からも口添えしてくれんか

茶屋のお婆さん

ありゃ、あの子が気に入ったのかい。信心深いし綺麗な娘だし、よし一肌脱いでやろう

いつものようにお参りに来た女性におばあさんがその話をすると、

美しい女性

私はある願いがあってこのお寺に百日の間お参りしているのです。それが済んだ後でいいなら、お嫁に行きましょう

…というわけで、嫁に行ってもいいそうだよ

酒屋の息子

ほんとうか!!!女将、ありがとう!!

そうして話はどんどん運んで、嫁入りの日取りも決まりました。

さて、いよいよ嫁入りの日になると、今までいいお天気だったのが急に雨が降りだしました。

酒屋の息子

―――雨か。でも空も明るいし、じき止むだろう。

しかしそれもやんで、女は嫁入り道具を持ってやってきました。

美しい女性

ふつつか者ですが、よろしくお願いします。

それからというもの、酒屋は急に繁盛するようになりました。

間もなく女は身重になり、息子の母親に頼んで蔵を一つ借りてそこに寝起きするようになりました。

が、お産が近づくと

私のお産の間は、決して蔵をのぞかないでください

いいですか、私がお産しているとき、蔵をのぞいてはいけませんよ

蔵をのぞいてはいけませんよ、私がお産し…

酒屋の息子

わかった!わかったから!!

けれども、自分のお嫁さんがお産で苦しんでいると思うと、息子はとても心配でじっとしていられなくなりました。

そうして、つい約束をやぶってしまい――蔵の中をのぞいてしまいました。

すると、蔵の中には、蔵いっぱいになるような大蛇が横たわっていました。

そうして、子どもを抱くように中に置いて、舌で舐めているのでした。

酒屋の息子

! ! ! !

姿を見られたことに気づいた蛇は、

大蛇

大蛇

見てしまったのですね

こうなたからには、私はもうここにはいられません。いとまをいただきます。

ですが、私がいなくなったら子どものお乳がなくてさぞ困るでしょう。私の目の玉をひとつくりぬいて置いていきます。これをしゃぶらせて育ててください。

もしまた私に用事ができたら、湖の岸に来て呼んでください

…と言って、どことも知れず行ってしまいました。

そのあと、子どもは目の玉をしゃぶらせておくとおなかをすかせることもなく育っていきました。

しかし、ある時、殿様がこの不思議な玉の話を聞きつけて…

殿様

世にも珍しい目玉とは、これのことか。なんでもこれがあれば、赤子は乳も飲まず、夜泣きをしてもたちどころに泣き止むというではないか。

…自分の子どもを育てるために取り上げてしまいました。

酒屋

ああ、目玉を取り上げられてしまった。うちには、この子に乳をのませてくれる母親がいないというのに…

酒屋は子どもが泣くので途方に暮れました。けれど、家を出ていくときに妻が言った言葉を思い出しました。

ーもしまた私に用事ができたら、湖の岸に来て呼んでくださいー

ですから、酒屋の男は、湖のほとりまで行って妻を呼びました。

酒屋

…おーい!

すると水の中から女の人が現われました。

酒屋の息子

…かくかくしかじか、目玉を取り上げられてしまって子どもが泣いて困っているのだ…

…わかりました。それでは…

と言って、残った一つの眼の玉をくりぬいて男に渡しました。

これで私は両眼とも失ってしまいましたから、もう世の中を見ることができません

大きくなるその子を見る楽しみも失われてしまいました…

この子が大きくなったら、どうか三井寺の鐘つきにしてください。私はそれで朝夕を知って暮らしていくことができましょうから

と言って、再び水の中に姿を消してしまいました。

子どもはその玉で無事に成長しましたので、母の言葉のどおり三井寺の鐘つきになったということであります。

おしまい、おしまい。

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舞台となった場所、補足や資料

元の採集場所や文献福島県平市。『磐城昔話集』岩崎敏夫 より
制作者が参考にした文献角川ソフィア文庫 「日本の昔話」柳田国男 pp.121-123

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