ユダヤ民話における蛇の異類婚姻譚-リンドルム王型物語「蛇王子」

  • ブックマーク
  • Feedly
  • -
    コピー

このWEBコラムでは、蛇にまつわる日本の昔話を「登場人物紹介」「あらすじ」「トークノベル形式のものがたり」でお届けしています。ほかのコンテンツには人物の挿絵や状況描写イラストが挿入されていますが、これはユダヤ民話であり、イラストを挿入するにはあまりにもリサーチが追い付かないため、カンタンな吹き出しと語り文でお届けいたします。このお話は「彼らの母語であるヘブライ語やラディノ語(※)からの直訳」であるのが他の民話集との大きな違いであると自認されている「ユダヤ民話40選」を参考に再話いたしました。ところどころ、私には主語が理解できなかったり、よくわからなかったりする部分を、できるだけ元のお話の意図を失わないよう意識しながら再話に努めましたが、私にはユダヤ伝承の予備知識はそう多くもっておらず、また再話そういった営為は「解釈」ぬきには行えないことをご了承ください。利用した出典は明記しておりますので、気になる方はご活用ください。

ユダヤ民話「蛇王子」おもな登場人物

主な登場人物(ざっくり登場順に紹介)

お妃さま
不妊に悩む、王さまの妻。ある日、散歩中に出会った蛇に祝福され、蛇息子を産む。主人公的少女のしゅうとめその①

王さま

蛇息子の父親。お話の中にまんべんなく登場。主人公的少女のしゅうとその①

蛇の親子
お妃が散歩先で出会う親子の蛇。親蛇がお妃を祝福し、お妃は蛇を産む。(出産しようとするお妃の元にあらわれては産婆を食べていく?)

少女

いわゆる「主人公」的な存在。亡き母親の墓をおとずれては助言をもらい、お妃の出産手伝いや、生まれた蛇息子の世話をこなしていく。継母の進言によって蛇息子の妻になり、自身も出産もするが、継母ままははになり替わられて別世界を彷徨うことになり…。

少女の継母
少女の継母。少女をお妃の世話係にしたり、少女を蛇息子の妻にしたりと手をまわし、やがて自身が少女になり替わって王子の妻の座に居座ろうとする。最後は自分の言った言葉の通りに、四つ裂きにされて町の四隅の家にぶらさげられた。

少女の実の母
今は亡き少女の母親…だが、少女がこの母の墓の前で泣いていると、その都度出現して的確な助言を授ける。

蛇息子(王子/少女の夫その①)
お妃から生まれた蛇の息子。幼い時は乳母の乳首をかみちぎったり、成長してからは嫁候補を丸のみしていったりと騒動が絶えないが、少女によって人間の王子に変身する。

‐別世界に行ってから‐

若者(少女の夫その②)
別世界を彷徨っていた少女が出会った若者。昼間は死んでいて、夜は動く。少女との間に子どもをもうけ、出産にあたって自分の実家の馬屋に向かわせる。

女主人(若者の母親/少女の姑その②)
昼死んでいる若者の母親。ジプシーの身なりをした少女に馬屋を貸す。ある日、立ち聞きすることで、死んだはずの自分の息子が馬屋に出入りしていることを知る。

男主人(若者の父親/少女の舅その②)
昼死んでいる若者の父親。自分の息子が馬屋に出入りしていることを、妻から教えられて、王に助言を乞う。やがて王によって息子を取り戻すことができたので、嫁である少女は王の家に返すことを承諾する。

ユダヤ民話「蛇王子」あらすじ

あらすじ(タップで開きます)

少女の最初の結婚~別世界に飛ばされるまで

子どもに恵まれないお妃、蛇に祝福されて蛇息子を産む。

子どもに恵まれないお妃が、散歩中に蛇の親子に出会い、それをうらやましがったところその親蛇に祝福され、蛇の息子を妊娠する。

けれど、蛇が生まれようとする際、産婆がことごとく蛇に喰われてしまう。ある少女が継母の手びきにより蛇息子の出産手伝いを行う。少女は、亡き実母の墓前で助言をもらい、蛇息子の出産を完了させる。

つぎに蛇息子は乳をほしがるが、乳母の乳首をことごとくかみちぎってしまうので、またあの少女が呼び戻される。少女は、亡き実母の墓前で助言をもらい、蛇息子の乳やりを完了させる。

蛇息子の乳母を勤めた少女、蛇息子と結婚する。初夜に蛇ははさみを口から投げ入れられ、人間になる。

成長した蛇息子は結婚を望むが、嫁になる娘をことごとく食べてしまう。継母の進言により、あの少女が蛇王子の妻候補として呼び戻される。少女は、亡き実母の墓前で助言をもらい、蛇息子を人間にして結婚する。

少女は元蛇息子の王子との間に子どもをもうけるが、継母の奸計で別世界に飛ばされる。

少女は蛇だった王子と結婚し、子どもを出産する。

しかし、ある日訪問してきた継母が少女になり替わり、少女は別世界を彷徨うこととなる。

少女の2度目の結婚~幕引きまで

少女は別世界で、夜だけ行き帰る死んだ若者と結婚する。若者との子の出産にあたり、若者の実家の馬屋に行く。

別世界を彷徨う少女は、野原で若者の死体と出会う。しかしその死体は夜になると動きだし、少女はその若者と結婚する。

若者との子どもをみごもった少女は、臨月になったことを若者につげると、若者は「野原で子どもを産んでほしくない。実家へ行こう」と言って、少女を実家に案内し、そこの馬屋を借りるように言う。

死んだはずの息子の存在に気づいた息子の両親は、王に助言を乞い、息子を取り戻す。そして王と王子は少女と再会し、少女は最初の夫の一家に戻る。

馬屋を借りた少女はそこで子供を出産する。夜、若者が出入りしていることに気づいた若者の親は、死んだはずの息子が馬屋に出入りしていることを王に相談しに行く。

王は若者の親に助言を与え、みずからも馬屋に行って若者の復活を手伝う。その際、少女と再会し、それがかつて自分の息子(元・蛇だった王子)の嫁だったことを知り、少女がそこにいる経緯を知る。

王と蛇だった王子は少女を連れてもとの家に戻る。(若者の親はそれを承諾する。)

少女になり替わった継母は処罰を受け、物語は幕を閉じる。

家に戻った王は、宴会を催し、少女にすり替わっているつもりの継母に「悪い事をした人間はどのようにすべきか」と尋ねる。継母は「その者を四つ裂きにして、町の四角の家の戸口にその死体の切れ端をぶらさげるべきですわ」と答えたので、「ではそのようにしよう」と言って、そのようにする。

おしまい。

はじまり、はじまり…

ユダヤ民話「蛇王子」物語

昔むかし、王様がいました。

この王様にはお妃がいましたが、
そのお妃は子どもが産めず、
そのことをとても悲しく思っていました。

ある時、お妃さまは、
王様といっしょに野原を歩いていました。

すると、木の下に、
一匹の蛇がいるのを見つけました。
この蛇のそばには小蛇がいて、
親子であることがわかりましたので、
それを見たお妃さまは嘆きました。

お妃さま

この蛇が子どもを産んだのに、私は産めないなんて…

すると、お妃さまの嘆きを訊いた蛇はそばまでやってきて、

どうして私たちのことをうらやましがられるのですか?

と尋ねました。事情を察した蛇は

蛇を産むように、祝福してあげましょう

と言いました。
それを聞いたお妃さまはため息をつきました。

お妃さま

そういう事じゃないのよ… 

すると、王様はお妃さまを
なぐさめる言葉をかけました。

王さま

悲しむことはないよ

それからほどなくして。
お妃さまは妊娠しました。
9か月たって、
お妃さまはいよいよ出産することになりました。

しかし、子どもは難産で、なかなか生まれてきません。

出産の手伝いをするために
産婆さんが呼ばれましたが、
どこからか蛇が現われて
産婆さんを食べてしまいました。

やがて妃のおなかから
子どもが生まれそうになるのですが、
それが蛇であることがわかりました。

そうしていよいよ蛇が生まれそうになったので、
もう一人産婆さんが呼ばれましたが、
その産婆さんもまた、
蛇に食べられてしまいました。

最後に、ある女性ががやってきました。
この女性は、
自分の夫の連れ子だった少女を
お妃の世話係に差し出すためにやってきたのでした。

少女は、今にも子どもを産みそうな
お妃さまのところへ呼ばれました。

少女はお妃さまに言いました

少女

どうして私をお呼びになったのですか?

お妃さま

子どもを産むために

少女

お子様をお望みなら、三日の猶予をお与えください

少女はそう告げると、家へ帰ろうとしました。
けれど家には帰らず、
自分の実の母親のお墓に行くことにしました。

そして3日の間、
母親の墓の前で泣き続けました。

すると、3日目に死んだ少女の母親が出て来て

少女の母

私に用があるのかい。なぜ私のところにやってきたんだい。

お前は幸福になるだろう。。王様に絹の服と父の入った哺乳瓶と蜜の入った瓶と、蛇を受け取るためのスプーンと二本作ってもらうように言いなさい。

母親からの助言聞いた少女は戻って来て、
お妃の蛇の出産を終えました。

生まれた蛇が口を開けると、
娘は哺乳瓶を入れてやりました。

その哺乳瓶の乳がなくなると
別の哺乳瓶を咥えさせました。

蛇はすごい勢いで乳を飲むので、
あっというまになくなってしまいましたが、
次はスプーンを使って蛇に乳を与えました。

そうして落ち着くと、
蛇を外に出して、
小屋の中にいれました。

そうして娘は家に帰っていきました。

生まれた蛇は乳を欲しがり続けたので、
乳母が呼ばれました。

けれど乳母が蛇に乳をふくませると、
蛇は乳首をかみ切ってしまいました。

次々と乳母がよばれましたが、
そのたびに蛇が乳をかみ切るので、
とうとう世の中に乳母がいなくなってしまいました。

少女の継母は王様のところへ行き、王様に言いました。

継母

蛇を抱いて、乳をやる乳母がまだいるのですよ

王さま

それは誰なのか

継母

私の義理の娘でございます。

そうして少女は、王様のもとに呼び戻されました。

少女は王様に伺いを立てました。

少女

どうして私をお呼びになったのですか?

王さま

蛇に乳をやるためにお前を呼んだのだ

少女

蛇に乳をさしあげましょう。けれども三日の猶予をお与えください

そうして少女は、また自分の実の母のお墓に行きました。

すると、死んだ母親が出て来て彼女に言いました。

少女の母

お前をここへよこしたのは誰なんだい。お前は幸福になるだろう。すでに持っている皮の服と、蜜のひょうたんと乳のひょうたんの二つのひょうたんを持って行って、蛇を育てなさい

少女は王様の元に戻り、こう言いました。

少女

蜜と乳の入ったひょうたんを一つずつ下さるのなら、お育て申し上げましょう

そうしてひょうたんを与えられた少女は、
それらを使って蛇に乳をやりました。

みるみる蛇は大きくなっていきましたので、
やがて乳を与えるのはやめることにしました。

それから少女は暇をもらって家へ帰りました。

ある日、蛇の息子が父である王のところにやって来て言いました。

蛇息子

結婚したいと思います

王さま

息子よ、誰がお前と結婚してくれるだろうか

蛇息子

結婚してくれようがしてくれまいが、私はその人の頭を食べてしまうでしょう

父である王様は、
蛇息子のために嫁となる娘をひとり探しました。

娘は嫁入りしてきて蛇はその娘と結婚しましたが、
蛇息子は結婚したそのお嫁さんを食べてしまったのでした。

その後、もうひとり別の娘と結婚しましたが、
その娘も食べてしまいました。

さて、あの少女の継母は、
王様のところへ行ってこう言いました。

継母

なんと不思議なことでしょう。不幸を背負った人は帽子をかぶるものです

王様はこの言葉の意味がわからなかったので聴きました。

王様

お前が言っている謎のような言葉は何を意味しているのだ?

継母

あなた様の蛇息子にお乳をやった私の娘のことを言っているのです。あの子は、蛇を夫として受け入れるでしょう

それを聴いた王様は、あの少女を呼び戻しました。

少女

どうして私をお呼びになったのですか?

王さま

お前を呼んだのは、わしの息子を夫にさせるためだ

少女

私はまだ結婚する年頃ではありません

王さま

それはならぬ。息子を夫にしなければならないのだ

少女

それならば、十日間の猶予をお与えください

そうして、彼女は実の母のお墓に行って、
夜になるまで泣き続けました。

すると母親が出て来てこう言いました。

少女の母

娘や、お前をここへよこしたのは誰なんだい?お前は幸福になるだろう。お前がすでに持っている皮の服を着て、結婚式の夜にはお前のために二つの大きな明かりを灯し、はさみを二つ作ってもらうように王さまに頼みなさい

そのあと、少女は蛇息子と結婚しました。

蛇は少女に向かって大きな口を開けるので、
娘は近づいて、
蛇の口の中に大きなはさみを投げ入れました。

二度目には二つめの鋏を投げ入れました。

三度目に投げ入れたとき、
蛇は人間の若者になりました。

そうして、少女と蛇だった王子は、
一晩を共に明かしました。

少女は起きると、蛇だった王子が裸であるのを知って尋ねました。

少女

下着を持っていないのですか

王子

お前が私の蛇の服を脱がしたことがわからないのか

再び、少女は部屋を出て、王様を呼びました。

王様

どうして私を呼んだのだ」

少女

下着をお持ちではないですか?王子さまは裸なのです

それから王様は、蛇であった息子に服を贈りました。

人間になった息子を見た王様は、
王子のためにすばらしい結婚式をしてやりました。

そしてしばらくして。少女は妊娠しました。

すでに9か月がすぎて、少女は子どもを産みました。

少女がベッドの上に座っていると、継母が訪れて言いました。

継母

娘や。お前は結婚して王子の妃になったというのに、私を呼びにこなかったのはいったいどういうことだい?こうして孫も産まれたっていうのに、あたしに顔も見せないつもりだったのかい?

少女

お母さんをお呼びする時間がありませんでした

お妃さま

積もる話もあるでしょうから、私がこの子をあちらの部屋で見ていることにしましょうかね

少女

お義母さま、私をひとりにしないでください

お妃さま

?そうですか。ではあなたを一人にはしませんよ

けれどお妃さまは何か用事で呼ばれてしまったのか…
部屋を出て行ってしまいました。

継母は、少女に向かって

継母

大変だっただろう。髪を梳かしてあげるから、ちょっと頭をお貸し

と言い、少女の頭を触ったかと思うと…

少女の頭をピンを刺して、壁を叩いて、
ピンを壁の下の方へ向かって投げてしまいました。

そうして継母は少女に成り代わり、
ベッドの上に座ったのでした。

少女は、別世界を歩いていました。

歩いているうちに明るい野原に出ました。

そこに横たわって死んでいる若者の死体があったので、
ハンカチを取り出して、
その若者の顔の上にかけてやりました。

午後になると、その若者は起き上がりました。
若者は自分の顔がハンカチで
おおわれているのに気づきました。

そしてそばにいた少女に訊ねました。

若者

この辺で何を探しているのですか?

少女

歩いていて、ここにいるあなたを見つけたのです。あなたが死んでいらっしゃるように見えたので、野獣に食べられてしまわないように、あなたを守ろうと思ったのです。

そうして、少女は若者に近づいて言いました。

少女

私たち2人、結婚しませんか

若者

それじゃ、結婚しましょう。私はあなたを妻にします。しかし、私は夜だけは生きており、昼間は死んでいます。

少女

それで結構です

そして二人は結婚しました。

結婚後、少女はみごもりました。

妊娠9か月で、
少女は自分の子どもが生まれそうになったので、
若者に向かって言いました。

少女

生まれそうです

若者

今ごろどうしたことだ。野原でなんか子どもを産んでほしくない。私の母親のところへ連れて行くから、そこで子どもを産みなさい

そうして若者の母親の家に連れていかれました。

着いたころには夜になっていました。

若者は妻である少女に言いました。

若者

僕は死んでいるので、あの家に戻ることはできない。君がひとりで交渉しなさい。

若者

君が子どもを産みそうだと知れば、私の母親はお前に部屋を貸してくれようとするだろう。でも、部屋では産まずに、馬屋で産んでくれ。

そうして少女ジプシーの身なりをして、
戸口で頼みました。

少女

子どもが生まれそうなのです。家はとても遠いので、こんな時間に帰ることはできません。今夜ここに泊めていただけませんか?

 それを訊いた女中が女主人に伝えると、
女主人はこのジプシー女に
部屋を与えてやるように申しつけました。

少女

部屋は必要ありません。馬屋をお持ちではないでしょうか

女中は女主人にそれを伝えると

女主人

それじゃ、馬屋に敷くござをその人にあげなさい

そうして少女は馬屋に座って、
息子を産みました。

そして、夫である若者が馬屋にやってきて、
馬屋を美しい部屋にしました。

そうして若者は歌を歌いました。

若者

子どもよ、時よ、お前の祖母がこの孫をどこに入れているか知っていたならば。空には星がなかった。鶏も泣いていなかった。しかし、私はずっとここにいたのだ

夜が明けると、若者は立ち去りました。
ある夜、女中がやってきて、
若者が歌っているのを立ち聞きし、それを女主人に言いました。

女中

馬屋に、歌をうたっている若者がいます

それを知った女主人は馬屋にやってきてその声を聴き、それが亡き自分の息子であることを知りました。

女主人

あなた、……かくかくしかじかで……どうしたらいいのかしら…

男主人

それでは王様のところへ相談しに行こう

そうして王様のところに行って事の顛末を話しました。

王様

お前はどうしろと言うのだ

男主人

私の亡くなったはずの息子が馬屋にいるのでございます。どうすればよろしいでしょうか。『空に星はなく、雄鶏は鳴かない。しかし、私はずっとここにいたのだ』と歌っているのでございます

王様

カンタンなことだ。馬屋をおおうための細くて長い錦織物と星のような小さなカギを用意せよ。そうして鍵をかければ、お前は息子を取り戻せるだろう

そうして、王様がみずからやってきて、周辺の雄鶏が鳴かないようにお触れをだしました。

それらが終わると、女主人が馬屋に入り、自分の息子である若者と、その嫁である少女の手をとって、生まれた子どもも一緒に上へ連れ出しました。

そうして少女を上へ連れていったあとで、王様が王子と共に一緒に訪問してきました。

少女は王様と王子さまにチョコレートふるまいました。王様と王子に甘いお菓子を振る舞っているとき、彼女が笑っていたのを不審に思った王様は、少女が出て行ったあとに、彼女の舅である男主人に訊ねました。

王様

どうしてお前の嫁は我々のことを笑ったのか?

男主人

わかりません。嫁を呼んで聞いてみましょう

そうして少女を呼びもどして、王様は「どうして我々の事を笑ったのか」と尋ねると、少女はこう答えました

少女

笑うなとおっしゃるのですか?王様は私のしゅうとであり、王子は私の夫でございますのに

王様

お前が言っていることはよくわからない

少女

あなた様に申し上げていることは、王子さまは私の夫であり。陛下は私のしゅうとであるということでございます

王様

ことの成り行きを話してみなさい

王様にうながされたので、少女はこれまでのことを話しました。

少女

…ということで、継母がやってきて私を追い出しました。私は王子と結婚しておりましたが、今ベッドにいるのは私の継母でございます。それから、私は別世界の野原をさまよって…そうしてこの若者と結婚しました。そして今ここにおります。あなたがたに気に入られて、こうしているのです

事態じたい把握はあくした王様は、男主人に言いました。

王さま

お前は息子をとれ。私は嫁を連れて行く。いいか?

男主人

どうぞ嫁をお取りください。私はもう息子を救いだしただけで十分でございます

そうして、王様は少女を連れていきました。

王様は家に戻り、少女を部屋に隠してから、ベッドで少女に扮している継母に向かって言いました。

王さま

さあ、宴会を催そう

そして宴会をもよおして、食べたり飲んだりしているときに、王様は少女に扮した継母に訊ねた。

王さま

人に悪い事をした者はどうされるべきだと思うかね?

ベッドにいた継母は答えた。

継母(扮装中)

その者を四つ裂きにして、町の四角の家の戸口にその死体の切れ端をぶらさげるべきですわ

王さま

では、そのようにしよう

そして少女にすり替わっていた継母は、そのようになりました。

話はここまで。二人にはお金を。私たちにはふすまを。

補足や資料

語り手の出身地:スコプリエ
IFA番号:10719
AT番号:433B

元の採集場所や文献C.M.Crews;Recherches sur le judeo-espgnol dans les pays balkaniques,Paris 1935 (ラディノ語)
制作者が参考にした文献「ユダヤ民話40選」(原語翻訳による世界の民話集)pp.149‐157『26 蛇王子』


お妃さまの出産のときに産婆を次々と食べた蛇が、「どこから出てきた蛇なのか不明」なのか、それとも生まれかけの蛇が頭だけ出したのか、よくわかりませんでした。生まれた蛇はある程度成長するまで乳と蜜しか口にできなかったと読めたので、「どこからともなくやってきた蛇」といった表現にしました。お妃さまを祝福した蛇なのか、はたまた別の蛇なのか…?その辺りも不明です。

少女と蛇息子の初夜は、「3回目に何かが投げ入れたことによって蛇息子が人間に変わる」ことだけはわかったのですが、母親の助言でもらった鋏は2つのはずなので、何を投げ入れたのか、はたまた2回目の鋏投入で変身したのか…よくわかりませんでした。「3」という回数にこだわりがあるように感じたので、「3回目で変身」という叙述は残しました。明かりを投げ入れたのでしょうか?

少女は2回出産していると思われますが、どちらの子どもについてほとんど言及がありませんでしたので、そのあたりはそのままです。また、少女にすり替わった継母は、摩り替わり以降ずっと「妊婦」と表現されていたのですが、少女は出産を終えているはずなのになぜそのように形容されるのかよくわかりませんでした…。

「二人にはお金を。私たちにはふすまを」というのは、ユダヤの民話で用いられる結びの言葉のようです。(同じ書籍の中で散見されました。)

433B リンドルム王 (タイプ433・433A・433Cを含む)430参照。
この話は蛇(虫・蛙・蟾蜍・蜥蜴・その他の動物)と結婚する勇敢な女性に関係がある。彼女はキス(彼を抱きしめる・彼のベッドで一緒に寝る・彼がかぶっている皮よりも多くのシャツを着る)によって魔法を解く。(433と433A)タイプ425A・411・480・711参照。
この話には主に三つの違った形がある。

(1)貧しい女性が蛇を生む(蛇か蛙を養子とする)。その動物が大きくなると王女と結婚したいと言う。王は不可能な試練を課すが、蛇は成し遂げる(王を脅す)。蛇は姫と結婚し、結婚の後彼はハンサムな男性に変身する(王子)。

(2)子供のいない王妃(軽率な願い事或いは魔法の妊娠を通じて)が秘密の動物の子供を産む(蛇・ドラゴンなど)。子供は大きくなって、結婚したいと言うが、彼と結婚した女性はその晩に殺されてしまう。
一人の勇気のある若い女性(虐待されている継子)がシャツの上に更に七枚のシャツを着込む(賢い女性、死んだ母の忠告に従って)。彼女は蛇に彼の皮を一枚しまうたびに彼女が一枚ずつシャツを脱ぐという課題を出す。彼が完全に裸になった時、彼女はそれを覗き見た。すると彼はハンサムな若い男になっていた。(皮は壊してしまう)

(3)若い女が彼女に宝石をくれた蛇と結婚すると、蛇はハンサムな若い男に変身する。女はその蛇の皮を燃やしてしまい、夫とともに幸せに暮らす。
それを嫉妬した女性が父に自分も蛇と結婚したいと言う。彼女が一人で動物と一緒に部屋に取り残されると、動物は彼女を殺す。(タイプ433C)

幾つかのヴァリアントでは夫の魔法が解けた後、女性は(嫉妬した女性によって中傷され)追い払われる。彼女は(鳥に変身させられていた)王子、或いは死者の魔法を解いて彼と結婚する。そして息子を生む。彼女の最初の夫は長い探索の後に彼女を見つけ出す。彼女は二人の夫から一人を選ばなければならないが、初めの夫と共にいることを決断する。

https://plaza.rakuten.co.jp/eastasian/diary/200909250000/
  • ブックマーク
  • Feedly
  • -
    コピー