このコラムでは、日本の昔話(≒民話)をはじめとした、世界各国の有名な異類婚姻譚を紹介していきます。
日本のお話はご存知の方も多いと思ったので、タイトルだけ挙げて記載途中です。
前提-「異類婚姻譚」とは
「異類婚姻譚」という用語は、
もとを辿れば柳田国男が使用しはじめた用語のようです。
現在では研究も進んで、
柳田の最初の頃の方の定義からもう少し細かい定義もなされているようですが、
2000年も20年過ぎて令和をという時代になった今日の使用のされ方では
一周回って以下のような定義でとりあえずはよいのではないか?と思います。
人間の美女または美男と、鳥獣草木などの人でないものとが縁を結んだという昔話など
(引用:柳田國男「桃太郎の誕生」)
▽もっと詳しく
このコラムでは、日本の民間説話の研究書籍を独学で何十冊か読んでなんとなくつかめてきた情報を元に構成してみます。
日本の昔話(≒民話)における有名な異類婚姻譚
日本のお話しは「異類女房譚」と「異類婿譚」から
2点ずつピックアップしてみたいと思います。
日本語の説話に関しては、有名なものも多いので、
冗長になりすぎないようにアコーディオンに折り込みます。
気になるものをタップしてお読みください。
日本の昔話における異類女房(動物女房)譚や異類婿譚のあらすじ
異類女房譚:「鶴女房(鶴の恩返し)」や「狐女房」
山から薪を切っては町で売って暮らす若者がいた。ある日、町からの帰り道に山を通りかかったさい、子どもたちが鶴の足に縄をかけて遊んでいたのを見た若者は、自分の売り上げた金でその鶴を買い取って逃がしてやる。
その晩、若者の家に美しい娘がやって来て「一晩泊めてくれ」と頼んでくる。翌朝、娘は両手をついて「嫁にしてくれ」と言ってくる。
嫁として迎えることを承諾すると、娘は「ひとつ布を織るから、出来上がるまで覗かないでほしい。7晩目にはきっとお気に入りの布を作り上げてみせる。」と言って部屋に閉じこもる。7日目の晩に一反の布を若者に渡して、売るように言う
布は、思っていた倍の値段で売れ、次はその1.5倍で買い取ってくれるという話になったため、帰宅した若者は妻にまた布を織るように要求する。そうして妻はまた部屋に閉じこもるが、そのような質の高い布をどうして織れるのか心配になった若者は、部屋を覗いてしまう。
すると、丸裸に近い姿になった鶴が、自分の体から一本一本毛を抜いて布を織っているのが見えた。
驚いた若者は、声を出してしまう。その晩遅くに機織りの音が止むと、妻が布を持って出て来て、若者に自分の正体が先日助けられた鶴であることを告げる。それから、「正体を見られたからには帰らなくてはならない」と言って、飛び去って行く。
鶴が二回回ったところを鶴巻田といい、糸をとった川を機織り川という。金蔵(若者の名)が出家して寺を建てたのが珍蔵寺で、その寺には鶴の織った曼荼羅が残っているという。
小澤俊夫「世界の民話」からの要約。
「狐女房」は現状の一番細かい分類に沿うと
・離別型
・聞き耳型
・田植え型
の3種類に分けられるそうです。
(※)小沢俊夫・稲田浩二責任編集による『日本昔話通観』における分類
▽聴き耳型
殿様が鷹狩りに行き、獲物が捕れなかったため、そこにあった神社の白狐を生け捕りにして川に流し、神社を焼き払った。川で魚釣りをしていた安倍安名が流れて来た白狐を助け、放してやる。安名の妻の留守中に妻に化けた狐が恩返しに来て、子供を産み童子丸と名付けられる。居眠りをして狐の正体がばれると、障子に書き置きをして篠田の森に帰る。訪ねて行った童子丸に病気がわかる術を授けると、殿様の病気を治し沢山の褒美をもらう。
http://namahage.is.akita-u.ac.jp/monogatari/show_detail.php?serial_no=3459
小澤俊夫「世界の民話」からの要約。
▽現代の「狐」にまつわる奇譚
現代において、人間社会と「狐」がどういう付き合い方をしているのか、という一端が垣間見えるおススメ書籍が田中康弘著「山怪」シリーズです。
もともとフォトグラファーだった田中氏が、フィールドワークしているうちにマタギの方などから「山で遭遇した不思議なお話」をチラホラ聴くようになり『これを集めたらよいのではないか…』と思い立ってできた書籍(だと認識しています)。
山で起きた不思議なできごとを「狐のしわざ」だと解釈するのは東北地方に多く、西日本ではそれは「狸(≒むじな)のしわざ」だと解釈したり、と、ふぶさなフィールドワークからうかがえる貴重なお話。シリーズ化しており、2022年時点では「山怪参」まで出版されています。
異類婿譚:「蛇婿譚」や「馬娘婚姻譚」
異類婿(動物婿)譚にもイロイロあるのですが、どうも割合的には全体の蛇聟譚が6割ほどらしいです。ので、有名どころとしてピックアップしてみました。
蛇婿入り」にもイロイロありますが、一番主流は「苧環型」と呼ばれているヤツだという認識で大丈夫なのではないかと思います(三輪山神婚神話みたいなヤツで、最後は蛇が死に蛇との間にできた子どもは流されて菖蒲湯の起源や桃の節句の起源に着地するもの。)
このウェブサイトの主要テーマなので、トークノベル式でご用意していますが、改めてあらすじだけご紹介していきたいと思います。
(このウェブサイトみてまわってくれ…!けっこう取り揃えているので…!というお気持ち)
昔むかしあるところに、貧しいお百姓がいた。百姓は妻を亡くしており、美しいひとり娘と二人で暮らしていた。また、馬を養っていた。
娘はこの馬を愛するようになり、夜になれば厩に行って寝て、終に馬と夫婦になった。 ある夜、そのことに気づいた百姓は次の日には娘には知らせず、馬を連れ出して桑の木に吊り下げて殺した。
娘は馬に泣き縋り、馬の首と共に昇天。 その夜、馬がいない事に気づいた娘は、父に尋ねて馬のことを知り、驚いて悲しんで桑の木の下に行って、死んだ馬の首に縋って泣き続けた。 百姓はこれを見てますます憎らしくなり、斧を持って馬の首を切り落とした。すると、娘はその馬の首に乗ったまま天に昇った、
(オシラサマと言うはこの時より成りたる神である。馬を吊り下げた桑の枝にてその神の像を作る。その像は3つある)
(柳田国男「遠野物語」家版1910年/「遠野物語 増補版」郷土研究社 1935年『遠野物語拾遺』79話に詳細あり) (参考:石井正己「現代に共鳴する昔話 異類婚・教科書・アジア」p.23,三弥井書店,2020年/令和2年)
『聴耳草紙』にはこの後日譚があり、天に飛んだ娘は両親の夢枕に立ち、臼の中の蚕虫を桑の葉で飼うことを教え、絹糸を産ませ、それが養蚕の由来になったとある。以上の説話から、馬と娘は馬頭・姫頭2体の養蚕の神となったとも考えられている。
(倉田隆延 著「オシラ様伝説(馬娘婚姻譚)」、吉成勇 編 『日本「神話・伝説」総覧』〈歴史読本特別増刊 事典シリーズ〉新人物往来社、1993年、314-315頁。ISBN 978-4-404-02011-6。 ウィキペディアより孫引きです)
世界各国の異類婚姻譚
「ばら」(フランス/かえるの異類婿)
商人が町へ買い物に出かけるときに、3人いる娘たちが土産を所望。末娘は「きれいなばら」を所望。父親は買い物からの帰り道、森で道に迷う。突如現れた城の中に入るが、そこには誰もおらず、大広間には食事が用意されており、「どうぞ召し上がれ」とメモを見る。商人それを食べ、謎の声に導かれるままにその城の部屋で休む。
翌朝、商人は帰る際に、庭に咲いていたバラを見つけ、末娘の土産のためにそれを手折る。すると、どこからか怖ろしい声が聞こえてくる。声は、商人がバラを手折ったことを責め、「お前が家に帰ったときに、お前に最初にとびついてきたものを私によこすと約束」するように言う。
家に帰ってきたときに最初にとびついてきたのは末娘だった。父は経緯を話して嘆き悲しむが、末娘は「きっとそんなに悪い事にはならないわ」と言って、自ら城へ連れて行ってもらうように言う。
城に着いた商人と娘は、城のドアに「すべては美しい子のために」と書かれた札が下がっていて、すみずみまで飾られているのを見る。
城の中にはいたるところに「すべては美しい子のために」と書かれていて、大広間のテーブルにはごちそうが並んでいて、すばらしい寝室もあった。末娘はごちそうを食べて眠りにつく。8日間そうやって、一人ですごす。
9日目、娘が夕食を済ませると、ドアから醜いヒキガエルが入ってくる。ヒキガエルは「美しい子よ、僕と結婚してくれるかい?」と聞く。娘は「まあ、みにくい動物ね。あんたなんかと結婚するわけないじゃないの」と、ヒキガエルからの求婚を拒絶する。
それからまた8日間、娘は一人で過ごすが、食事が出されなくなったので10日目にヒキガエルを探しに行く。沼の中で悲しそうに泣くヒキガエルを見つけた娘は、ヒキガエルに泣いている理由を尋ねる。ヒキガエルは、「(娘が)ぼくが嫌いだって言うから、ぼくはとても不幸せなんだ」と言い、それを聞いた娘はハッとして、ヒキガエルの求婚を承諾する。
すると、ガタガタと大地が震えるような音がして、美しい若い男が娘の前に現われる。その男は「僕は王子で、魔女に魔法をかけられていた。いま、きみのおかげで救われたのだ」と言い、ふたりは結婚式を挙げる。
(小澤俊夫「世界の民話」からの要約。)
この「ばら」は、フランスの著名な民話研究者であるアンゲーリカ・メルケルバッハ=ピンク女史が、1937年の冬にロートリンゲンのブーゼンドルフでペルネ夫人から聞き書きしたもの、とのことです。フランスでは17世紀にシャルル・ペローが10篇のおとぎばなしをまとめて出版したとのことで、これは民間伝承のペローによる再話で構成されているようです。当時の宮廷趣味や道徳観が色濃く織り込まれており、この「ばら」もその影響を受けている可能性があるとのことです。(参考:小沢俊夫「世界の民話 ひとと動物の婚姻譚」p.33)
「わにとお百姓の娘」(パンジャブ/わにの異類婿)
美しいひとり娘を持った百姓がいた。百姓はあらゆる求婚を断り、王子からの求婚を待っていた。
ある時、百姓が畑の様子を見に行くと、穀物が踏み荒らされており、ワニが眠っていた。百姓は村人たちとともにワニを包囲するが、ワニは怒ってしまい、川から高波が襲ってきて村人全員をさらってしまう。
1人だけ助かった百姓はワニに「お望みのものは何でも差し上げますから、わたしは無事に帰らせてくれ」と乞い、ワニは「いのちを助けてやる代わりに、おまえの娘をよこせ」と言う。
百姓はやむなく承知するが、不安になり、妻に相談する。そして娘を百姓の若者と結婚させてしまえばこの話はなかったことになると思い、すぐさま娘を百姓の若者と結婚させるが、花婿はその日のうちに死んでしまう。2度目の結婚相手も数日で死ぬ。
百姓も妻もあきらめて、娘を川に連れていく。娘は「この冷たい川の中で、あたしは若い命を終えなければならないのね。ああ、お父さん、助けてちょうだい」と泣くが、ワニは娘をつかまえて川の中へ消えて行く。
数か月後、父はワニが「娘に会いたい時はいつでもこれを川の中へ投げ込めばいい」と言って渡してきた杖のことを思いだし、それを川へ投げこむ。
すると、川の水がひいて幅広い豪華な階段が現われ、そこを降りて行くと城があった。娘は黄金の魚で造った王冠を頭に載せて現われ、「夫は権力があって心の優しい支配者なの」と言う。
やがて川の王が現われ、父は「ふしょうぶしょう娘をさしあげたことをお許しください。でも私は、あなたが怪物でないことを知らなかったのです。」と言う。
そして父は川の王に招かれて、妻ともども川の国でしあわせに暮らす。
小澤俊夫「世界の民話」p.38-39からの要約。
「虎女房」(中国/虎の異類女房)
兄弟で所有している瓜畑の夜番をさせられている弟がいた。弟は不公平に思い、十日ごとの交代制にするように兄と掛け合い、まず弟が十日目に番に出る。4晩目、遠くから虎のようなものが駆けてくるのが見えたので、弟は小屋に入る。まもなく戸を叩く音と人間の声がしたので開けると、そこには美しい女がいたので家の中に入れた。弟は「近隣の家の娘」だと思い、夫婦になる。
女は毎晩やってきて、戸の外で虎の皮を脱いで、美女に姿を変えて男の元を訪問しては談笑する。ときには鹿肉などを持参した。そうして翌朝早くに、床を離れて戸の外で皮を被り、また虎になって去っていく。男はそれに気づかなかった。
ひと月たっても戻らなかった弟を不審に思った兄は、ある日小屋を覗きに行く。そこには美しい娘と談笑する弟がいた。兄は、戸口の外に一枚の虎の皮が置かれているのを見つけ『隣近所にあのような娘はいない、あれはきっと虎の化け物だ』と勘づく。そうして兄は、虎の皮を自分の家に持ち帰って隠す。
次の朝、虎の皮がないことに気づいた娘は弟に食ってかかるが、弟は何のことかわからず、「何がないのか。はっきり言ってくれれば買って来てやるよ」と言う。しかし女は「買えないものなのよ」と地団駄を踏む。弟は実家に探しに行くよう提案し、ついでに兄夫婦に紹介する必要性を説く。
家に来た弟に対して、兄は自分が隠した皮のことを話す。二人は「皮を戻すと、元のすがたになって出ていくだろう」としてそのまま隠し続ける。女はそのまま弟と夫婦として暮らし、家の者から好かれ、一男二女をもうける。
子どもたちが大きくなると、兄夫婦が「お前たちの母親は虎の精だよ」ともらしてしまう。子どもたちは母親にそれを言うと、母はカッとなって跳び上がった。それから、女は毎日夫といがみ合うようになり「あたし出ていくわ。ここにはもう住めなくなった。あたしの着るものを早く返してよ」と言う。
弟は兄に相談する。「子どもも生まれたし、もうあいつに皮を返して出て行かそう」と言う話になり、兄は女の虎の皮を出して返してやる。すると女はすぐさまそれを身に着けて地面に一回転するなり、たちまち一頭のまだらの猛虎に変じた。そうして虎は兄の嫁とその二人の子どもを大口を開けて喰って、門から出て行った。
(「虎女房」、『中国の昔話』澤田瑞穂訳、1975年、109頁)
小澤俊夫「世界の民話」p.133-35からの要約。
※「中国」というと広すぎますし、この話型の地域的な分布もおそらくあることと思いますが、現状わからないので保留です。わかったらまた変更します。
「人間の妻になった鴨」(イヌイット/鴨の異類女房)
あるところに、母に「嫁を貰え」と勧められてもなかなかもらわない若者がいた。ある日、カヤックに乗って猟にでかけたさい、なかなか獲物がとれず川上を登っていき、河原に上陸してしばらく歩いていると、裸の娘たちがかくれんぼしているのを居つける。
そのうちの一番美しい娘に心を惹かれた若者は、ちょうどその娘がこちらに駆けて来たときにとびかかって捕まえ、そのまま女房にすると言う。
娘は嫌がるが、若者は聞かず、カヤックに連れてくる。腹が減ったといいう話になり、「あざらしの肉をやる」と言うが、娘は「そういう食べ物は知らないの」と言いい、手を触れることすらしなかった。その晩二人はカヤックで眠り、翌日家に帰る。
家に帰ると、息子が嫁を連れて来たことを母親は喜んだ。しかし、娘は肉を食べず、みなが寝静まってからひと山の草を摘んで食べた。やがて妻は息子と娘を産んだが、それでも草しか食べないので年老いた母親は「いつも草ばかり食べるなんて、おかしな子ね。あんたは鴨なの?」と言う。それを聞いた娘は大層怒り、泣きながら家に入って、二人の子どもに着物を着せると子どもたちを連れて出て行った。
帰宅した若者は、妻がいなくなったことを知り、老母を責める。そうして自分も家から出ていく。老母は泣いて止めようとするが、息子は翌朝妻の足跡をたどって捜しに行く。
途中小屋を見つけた若者は、焚き火のあとを見つける。一軒の家にいた男に斧を与えると、妻の行った道を教えてくれる。次の家ではあざらしのズボン、3番目の家では毛皮のマントを与えて道を教わる。3番目の家の男には「追うのをやめろ」と言われるが、教わった通りに大きな湖まで行く。しかし、カヤックも斧もなかったので湖を渡ることができず、疲労で死ぬよりほかにはないと思いながら眠り込んでしまう。
気が付くと、アカギツネに足を引っ張られて目が覚める。きつねはずきんをはねのけて人間の姿になり、若者に「どこから来たのか」尋ねる。わけを聞いたきつねは、「向こうに見える大きな山に登らなければならない」と教えてくる。途中にエスキモーの死体があるが、一瞬も立ち止まらずに頂上を目指さなくてはならないという。頂上には大きな集落があり、そのなかの一番大きな家に妻がいると言う。
若者は集落にたどり着く。一番大きな家から二人の男が出て来たので、木の枝で殴って殺して埋める。そうしているうちに家から子どもが出て来て、自分の父親がやってきたことを告げる。夫は家に入り、妻と再会する。
妻は「エスキモーがここへ来られるわけない」と言い、「ここはあたしの国、鴨の国よ」と言ってここにいるのが自分の夫であることを信じなかった。若者がここまできた経緯を話すと、妻はようやく信じる。
妻の老母は、若者に食べ物(木いちごと小さな魚2~3匹)を勧めるが、若者はこの食べ物に慣れていなかったので少ししか食べなかった。妻の父は「ここにはなんでもある」と言って、若者と鴨の妻は一族で共に暮らす。
そうしてある時、エスキモー鴨の大群が一族を襲って来たため、若者は杖で毎日襲来する敵を倒す。その内の数羽を持ち帰り、料理してもらうよう姑に頼むが、姑は「こういうものはわたしたちは食べないの」と言って一度は断る。頼み込むと料理してくれる。
そうして妻が2人目の息子を産むと、若者は息子と娘を残し、妻と赤ん坊を連れて去った。「たぶん、もう二度と戻ってこないでしょう。道は遠いですからね。」と言って。
小澤俊夫「世界の民話」p.152-155からの要約。
「ひきがえるの聟」(韓国/かえるの異類婿)
漁師の老人がいた。ある日一匹の魚もとれずに家に帰る途中,一匹のヒキガエルが「自分を家に連れていってくれ」と声をかけてくる。老人は家に連れて帰り、数日後,ひきがえるは老人に「自分を息子にしてくれ」と頼んでくる。老人は承諾。
その内にヒキガエルは,大監様(朝鮮の王朝の高官)の家の三番目の娘を嫁にすると言い出しす。老人は無理だと警告するが、ヒキガエルは翌晩,大監様の家に出かけ,神の使いのふりをして大監をだまし,三番目の娘を嫁にやることを承知させる。
結婚初夜に,ヒキガエルは花嫁に「はさみで背中の皮を切ってくれ」と頼む。花嫁が言われた通りにすると,まぶしいほどの美しい若者があらわれる。花婿は老人を呼んで改めて親子のちぎりを結び、その後,夫婦はとても幸せに暮らしたという。
一江原道原城郡一(崔編著1974:82-86)
異類婚姻謂の類型分析 日韓比較の視点から 川 森 博 司
「犬娘婚姻譚」(パプアニューギニア/犬の異類婿)
原初、人間の夫婦とオス犬が家族として平和に暮らしていたが、ある日人間の性生活を覗き見たことにより、言葉を失って森へ逃亡する(それまで犬も人語を話していた)という世界観がある
夫婦が飼っていたオス犬が、近くの森で獲物を刈っては夫婦の家に持ち帰っていた。近くの森では獲物を獲りつくしてしまったので遠出するようになると、やがて母犬と出会い、オス犬hあそのまま夫婦のもとに戻らず母犬と暮らすようになった。
人間の夫婦の男のほうが、その犬を探しに遠くの森にまで足を伸ばす。
犬たちの村には、男が飼っていたオス犬の父犬と母犬(牛のように大きい)のほかに沢山のオス犬と人間の女たちが家族となって暮らしていた。
男はその様子に恐怖を覚え、自分の飼い犬を連れて帰るのをあきらめて一度家に戻るが、「奴らがいったいなにをしているのか、確かめてみたいから」と言って、翌日もう一度犬の村に戻る。
犬の村に戻った男は、巨木の上に昇って様子を見る。(犬たちは群れを作って森に狩りに出かけ、獲物を確保して一晩は森で過ごし、翌日その獲物を村に持ち帰ることがわかる)。(犬の村には川があって、そこに木の幹が倒されて橋になっていて、犬たちはそこを行き来して森と村を往来していることなども把握する。)
そのうちに、魚を獲りに川辺にやってきた二人の人間の女と接触することに成功して、犬たちの住まいにかくまわれることになる。
犬たちの住まいの床下にかくまわれた男は、犬たちが帰還してからの様子を見る。犬たちは獲物を半分に分けるが、おいしい脂肪分の多い肉はでっぷりと太った首長に与えられ、ほかの女たちは骨と皮しか与えられず、それを疑問に思っている様子がわかる。
そして食事のあと、犬たちが人間の女と戯れているのを見た男は、「犬を殺して女を自分のものとして、あんな風にして女とじゃれあいたい」と切望する。
【中略】そうして男は自分の村に戻り、村の男たちを説得して引き連れて、犬の村に戻る。(男たちの支援を得るために村の男一人ひとりに、犬の村の女を割り当てる。)
男は、一人の女を自分のために確保しておいて、その他の犬の村の女たち全員を一人ずつ村の男たちにあてがう。そうして、男たちは犬の帰還を待ち、犬たちの殺害に成功。(森と村を往来する橋に切り込みを入れておいて折れるように細工。これは成功して、犬たちはすべて川に落ちる。流れ着いてきた先で待ち構えて棍棒や石斧で撲殺。)この際、たった一匹の犬だけがなんとか男たちの手を逃れて生き残る(この子孫が、現在人間が見る犬となった、という話が挟まる)。
人間の男たちは、続いて女首長を槍で殺害。こうして犬の村には、今や本当の人間の女たちだけが残った。男たちはこの村に移ってきて、女たち一人一人と結婚。
(口述者はトングシェンプ村キエチ族のボロンガイ長老、2006年8月11日 紙村採録)
(紙村徹「【特別寄稿】パプアニューギニアの犬娘婚姻神話」掲載のものより要約)
(小鳥遊書房,2020年「西洋文学にみる異類婚姻譚」pp.215-218)
このお話はクォマ族キエチ氏族に伝承されている「オオコウモリ神話」のうちの一部とのことです。この神話以降の流れでは、この人間の男たちが作った村の村人たちは一人の老婆を残してすべてオオコウモリに変身し、一旦、村は滅ぶ…という流れになるのだとか。(そうして残った一人の老婆からキエチ氏族の始祖が生まれる、という)
紙村氏は、「オス犬と人間の女とが結婚して子どもさえ設け、家族生活を実現させているのが自然のことのように語られている」ことを踏まえて、我々(日本人)との意識の違いについて触れつつ、これも〈破局型〉異類婚姻譚の亜型として〈犯罪への向かう破局型〉と呼称し、日本の異類女房説話との類似性についても語っています。
(参考:小鳥遊書房,2020年「西洋文学にみる異類婚姻譚」pp.218-227)
「シャチと娘の婚姻譚」(サハリン・アムール川流域の民族ニヴフ族/シャチの異類婿)
おじいさんとおばあさんと娘が3人で暮らしていた。ある時、おじいさんはシャチ(水の主)たちが鯨を砂浜へ追い上げて、剣(背びれ)で解体しているのを見つける。おじいさんはそれに忍び寄り、大きな声をあげると、シャチたちは驚いて水の中に姿を消す。鯨のそばには一本の剣が忘れられていたので、おじいさんはそれを持ち帰って長持(衣類や蒲団等を入れておく長方形をした蓋付きの大きな箱)の中に隠す。
翌日、娘がいなくなっていることに気づく。どこを探しても見つからない。その内に海に舟を出すと、シャチの群れが近寄ってきて、そこの一頭の背中に娘が乗っていることに気づく。娘は「お父さんが水の主の剣を取ったので、水の主はそのかわりに私を連れて去ったのです。私には子どもが生まれました。私のことは心配しないでください。これからは海に出なくても、砂浜に獲物がありますから、それを拾って暮らしてください」と言い遺し、シャチに姿を変えて去って行く。
(講談社「ガイドブック 世界の民話 」日本民話の会編pp.229‐230 より要約)
「蛇王子」(ユダヤ民族/蛇の異類婿)
少女の最初の結婚~別世界に飛ばされるまで
子どもに恵まれないお妃が、散歩中に蛇の親子に出会い、それをうらやましがったところその親蛇に祝福され、蛇の息子を妊娠する。
けれど、蛇が生まれようとする際、産婆がことごとく蛇に喰われてしまう。ある少女が継母の手びきにより蛇息子の出産手伝いを行う。少女は、亡き実母の墓前で助言をもらい、蛇息子の出産を完了させる。
つぎに蛇息子は乳をほしがるが、乳母の乳首をことごとくかみちぎってしまうので、またあの少女が呼び戻される。少女は、亡き実母の墓前で助言をもらい、蛇息子の乳やりを完了させる。
成長した蛇息子は結婚を望むが、嫁になる娘をことごとく食べてしまう。継母の進言により、あの少女が蛇王子の妻候補として呼び戻される。少女は、亡き実母の墓前で助言をもらい、蛇息子を人間にして結婚する。
少女は蛇だった王子と結婚し、子どもを出産する。
しかし、ある日訪問してきた継母が少女になり替わり、少女は別世界を彷徨うこととなる。…
ここからまだ続きますが、長いため別ページに全容を掲載しました。気になる方はそちらへどうぞです。
▽ユダヤ民話「蛇王子」
「ノロウェイの黒い牛」(イギリス・スコットランド/牛の異類婿)
昔々、ノルウェイに3人の姉妹がいた。
この娘たちはそれぞれ「お母さん、大麦のパンを焼いて薄切り肉をあぶってちょうだい。運試しをしたいの」と言って、魔女の家を訪問する。
運試しの末、長女も次女も複数の馬にひかれた馬車が迎えに来たのを見て、それぞれ現れた馬車に載ってどこかへ消える。風の噂によると、どこかの国で幸せに暮らしたとか。(けれどそれは別のお話。)
末の少女も同じように運試しをしますが、その時には1頭の黒い牛が現れ、末の少女はそれを悲しむ。
けれど、「それがお前さんの運命だよ」と魔女にたしなめられ、そのまま牛に乗せられ旅に出ることになる。
牛と旅を続けることになった少女は、牛が出してくれた食べ物や飲み物で体力を回復しながら、やがて大きなお城にたどりつく。
牛が「今夜はここに泊まらなくてはならない。ここは兄の城だから」というので、少女はお城の門を叩く。そして、少女は城の中に案内され、牛は城の敷地にて夜を明かす。
翌朝、少女は城の住人に「人生で最も困難を感じた時に割るといい」と言われ、美しいリンゴを渡される。
再び旅に出た少女と牛は、次のお城にたどり着き、そこではまた同じような流れで「桃」を、さらに3度目の城でも同じような流れで「すもも」を入手する。
それから少女と黒い牛さらに旅を続け、やがておどろおどろしい谷間に辿り着く。牛は「ここで待っていてくれ、悪魔(闇の精霊)と戦ってくる」と言って少女を岩の上に残して行く。
空の兆候で黒牛の勝利がわかったものの、少女は、「(牛が)戻ってくるまでに手足を動かしてしまうと、二度と会えなくなる」と言われていた禁止を破ってしまう。
牛が戻ってきた時には、少女の姿は見えなくなり、二人ははぐれる。
少女は彷徨い歩き、ガラスの山のふもとの鍛冶屋にたどり着く。鍛冶屋は「7年働いてくれたら、ガラスの山を登れる鉄の靴を作ってあげよう」というので、少女は7年鍛冶屋の元で働くことになる。
7年後、約束通り靴を作ってもらった少女は、ガラスの山を登り、あの洗濯女である魔女の家に戻ってきました。そこで少女は、その宿に宿泊していた雄々しく若い黒騎士の話を聞く。風の噂によるとその騎士はかつて悪魔(闇の精霊)に魔法をかけられて黒い牛になっていたことがあるのだという。
少女は噂の騎士が自分と旅をしていた黒牛であることを確信し、騎士に会おうとする。
なんでも騎士は血だらけの服を何枚か持っていて、それをきれいに洗えた女性を妻にすると言っていることがわかる。
魔女は自分の娘と騎士を結婚させたかったのでシミ落としにチャレンジするが、全く落とすことができなかった。しかし少女が洗ってみると、みるみるシャツは綺麗になった。
なので、魔女はシミを落としたのは自分の娘だと騎士に思い込ませ、騎士と自分の娘の結婚の話をとりつける。
少女もどうにか騎士と結婚したかったので、”あのリンゴ”を割ることにする。リンゴを割ると宝石がたくさん出てきたので、それで魔女の娘に交渉して騎士と一晩過ごす権利を買う。
しかしそれに気づいた魔女は騎士に眠り薬を盛り、少女はせっかくのチャンスが無駄になったので泣いて歌を歌う。
明くる日、少女は悲しみにくれてさらに桃を割る。するとリンゴのときよりもっと立派な宝石が出てきたので、それで魔女の娘から騎士と一晩過ごす権利を買う、が、またしても魔女は騎士に薬を盛り、娘は騎士と話すこともできず、同じようにすすり泣きかながら歌う。
3日目、いよいよ望みを失った少女はすももを割る。すももからはこれまでよりも更に素晴らしい宝石が出てきたので、いままでのように取引する。
時に、騎士のほうは、日中狩りに出かけたさい、他の人から「一晩じゅうあなたの部屋から聞こえているうめき声は何か」と聞かれており、自分には身に覚えがなかったため、物音の正体を確かめようとしていた。その晩、魔女に出された飲み物をこっそり捨て、寝たふりをした。
すると、皆が寝静まったころ、騎士は自分の部屋入ってきた少女が歌をうたっていることを知る。
騎士はあらためて少女に向き直り、少女と騎士はいままでのことを全て打ち明け合う。そして騎士は魔女のと魔女の娘を焼き殺させ、ふたりは結婚し、どうやら、今でも幸せに暮らしているらしい。
参考資料:河野一郎編訳「イギリス民話集 」岩波文庫 赤 279-1(1991年)
参考資料:出口保夫訳「怖くて不思議なスコットランド妖精物語」PHP研究所 (1999年)
▽もう少し詳細はこちら(別ウェブサイトに飛ぶ)
おまけ:メソポタミアには異類婚姻譚がなかった…?
小島恵子氏によると、
しかし、管見ではインドとヨーロッパを地理的に結ぶメソポタミアの神話に異類婚姻譚を見ることができず
小島恵子氏「インド・ヨーロッパ古代の異類婚姻譚について」(2006年))
だそうで、一応その感じで頭に入れておこうかなと思いました。
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参考文献(ピックアップ基準)
お話のピックアップ基準
このコラムで紹介している異類婚姻譚は、小澤俊夫(小沢俊夫)氏の書籍で取り扱われているものを中心に紹介しました。
小沢俊夫『昔話のコスモロジーーひとと動物の婚姻譚』は、異類婚姻をモチーフとした国際比較を通して、民俗によって異類(動物)をどのように受け止めているかを追求したもので、「蛇聟入」の昔話を考える上で有意義で多くの示唆を与えてくれる。世界の昔話を丹念に読みながら、語り手の意識への分け入るようにして追及する方法は、昔話研究の基本であることを改めて痛感する。
(花部英雄,2021年「桃太郎の発生 世界の比較からみる日本の昔話。説話」p.117,三弥井書店)
というように、他のいくつかの昔話研究の書籍や論文を読んでみても、小澤氏の書籍群は今日の昔話研究の基礎になっている印象がありましたので、「まずはこのあたりから紹介しておくのが手堅いだろう」と思った次第です。
小澤氏の書籍にはもっとたくさんの異類婚姻譚が紹介されていますし、この書籍の主題はそれらをふまえた研究の成果ですので、もう少し深く異類婚姻譚の世界に分け入りたい方はぜひ書籍をお読みくださいませ。
私は日本の蛇にまつわる昔話トークノベル化100話完走したら、「世界の民話」そのものの書籍を手にする作業のほうに入っていきたいと考えています。(どの国から入るか考え中…)