このWEBコラムでは、蛇にまつわる日本の昔話を「トークノベル形式のものがたり」でお届けしています。人物の挿絵や状況描写イラストはイメージです。また、登場人物の台詞を現代的な言葉遣いに変更したり、制作者の解釈で付け足したりして再話しています。元のお話の意図を失わないよう意識しながらの制作に努めていますが、そういった営為は「解釈」ぬきには行えないことをご了承ください。利用した出典は明記しておりますので、気になる方はご活用ください。
※このコンテンツは、イラストや動画や、動くエフェクトが使用されています。通信環境の良いところでご覧になられることをおすすめいたします。また、アニメーションの影響で、まれにめまいを覚えられる方や気分が悪くなられる方もいらっしゃいます。体の異変を感じた場合にはすぐ視聴を休止し、安静になさってください。
はじまり、はじまり…
「蛇息子:転生婚姻型」物語
むかしあるところに、長者がいました。
その長者には子どもがいませんでしたので、主人が毎日弁天さまにお参りしていました。
帰ったぞ。
おかえりなさいませ。…あなた、ごめんなさい。私が子どもができないせいで…。
いや、お前のせいだなんて思っておらんよ。毎日足を運んでいるからな、今日は周りを少し掃除させてもらった。他のお参りの人らも足を運びやすくなったろう。弁天さまも喜んでくださっているはずだ。
ある日、長者は不思議な夢を見ました。
…大歳の晩に、家に入って来たモノを
あなたたちの子どもにしなさい…
!?
夢か…
しかし、不思議なあたたかい夢であった。きっと弁天からのお告げに違いない。
なので大歳の晩。長者は戸口を開けて待つことにしました。
すると、そこから入ってきたのはくちなわ(蛇)でした。
へ、蛇だと…!?
いや、しかし、これは弁天さまの思し召しなのだ。それなら、この蛇を私たちの子どもにしよう。
と言って、八畳の部屋で飼うことにしました。
すると蛇はみるみる大きくなり、それはもう部屋いっぱいになりました。
… … …
もう大きくなったし、嫁をとってやらなくてはならんな…
でもあなた、確かに私たちにとってはかわいい息子だけれど、蛇は蛇なのよ。
蛇のお嫁になんて、誰に言ってもきっと断られるわ…
しかし、弁天さまに授かった子であるし、現に普通の蛇とちがってこんなにみるみる大きくなっているのだ。この子はものすごい力を持っているに違いない。
そのへんをちゃんと話せばわかってくれるさ。
…そうだといいのだけれど。このへんで年頃の娘さんというと、お百姓のおうちに2人いらしたと思うわ。
では、姉さんのほうを嫁にもらえんか、行って聞いてくることとしよう。
しかし、話を聞いた百姓の姉娘は
くちなわのお嫁になるなんて、わたし絶対ムリよ。
…と言いました。けれどそれを聞いていた妹のほうが…
長者の家と結婚したら、私たちの暮らしが楽になるはず…
…と思ったのか…
親を助けてもらえるのでしたら、私がお嫁に行きましょう。
そうして、妹が長者の家にお嫁に来ることになりました。
おおーい、お前に嫁さんをもらってきたぞ!
長者が、蛇息子のいる八畳の部屋のふすまを開けると…
… … …
その蛇が剃刀を咥えて、そうして娘の方へすり寄ってきました。
??
この剃刀を…持てばいいんです、か…?
娘が剃刀を手に取ると――なんと蛇は、さぁっとそのカミソリめがけて自分の喉を滑らせました。
!?
!?
――すると。
―――
中から、とてもきれいないい男が出てきました。
そして、蛇息子と妹娘の祝言の日。
※祝言…婚礼
今日はあの子が婿と一緒に挨拶周りに来ると言っていたけど…蛇と夫婦のお披露目なんて、いったいどうやるのかしら…。(ぶつくさぶつくさ)
あの子ったら、「親を助ける為に」だなんて偉そうに言って。それじゃまるで私が親不孝者みたいじゃない。蛇と結婚するなんてふつう無理でしょ。(ぶつくさぶつくさ)
ああ、でもあたしの身代わりになってくれたんだから、そんな事言っちゃ悪いわね。見てなさいよ、あたしはもっとイイ男と結婚して、あんたの分も幸せになってあげるからね…
!?
今日は一段と綺麗だ。みんなが君を見てる。
あなたの事を見てるのよ。ちょっとこのへんじゃいないくらい凛々しいもの。
!?!!?
蛇はっ!?なに、何!?一体なにがどうなってるの!?
あんなにイイ男が婿なら、あたしがお嫁に行けばよかった~!!
そうして、婿はこんな歌を歌ったそうです。
♪浮世習いかお国の作法か、姉が妹の酌を取る
(浮世習い…人の世の、のがれられないきまり、ならわし。『決まり事なのか、妹が姉を追い越してしまうのは』)
おしまい、おしまい。
アンケート
資料にした元のお話では、
『大晦日の夜、蛇が入って来た』時に長者が驚いた様子が特にありませんでした。なので「毎日弁天様にお祈りしていた」という描写を受けて、他のお話での価値観も含めて考えて「長者は信仰心によって受け入れがたい事も受け入れた」という方向性で再話しました。
しかし、「長者にとっては、蛇を息子にすることも、蛇に人間の嫁を取ることも問題ない、そういう価値観を持っていた」という方向性の再解釈をほどこしても面白いのかなぁと思いました。
…ということで、質問です。
●前の回答を見る→他の方の回答を閲覧することができます。
●回答を編集する→回答の訂正ができます。
※このアンケートに回答するのみで、回答者様の位置情報やメールアドレスが判明することはありません。(→プライバシーポリシー)
補足や資料
元の採集場所や文献 | 鳥取県西伯郡名和町東谷・林原キヨノ(福田晃他編「伯耆の昔話」〈蛇息子〉) |
制作者が参考にした文献 | 「奄美文化を探る」収録,福田晃著「水乞型蛇聟入の古層」pp.127‐128 |
伯耆国は、かつて日本の地方行政区分だった令制国の一つ。山陰道に属する。
同じ鳥取県に含まれる因幡国よりも島根県に含まれる出雲国と、古代遺跡の類似性、方言などの文化的共通点が多いため、雲伯という地域区分がある。また、中国地方最高峰の大山を境にして、東伯(県中部)と西伯(県西部)に分かれ、方言や文化などに違いが見られる。
ウィキペディアより
明治維新の直前の領域は現在の鳥取県米子市、倉吉市、境港市、東伯郡、西伯郡、日野郡にあたる。
元のお話しでは、「長者の妻」の存在は言及がありませんでしたが、再話の都合上登場させました。
これは「昔話大成」では「田螺息子」に分類されているお話(つまり「異常誕生譚」として整理されているお話)だそうですが、福田晃先生曰く「蛇聟入り・転生婚姻譚」に近似するもので、その接触によって生成されたものと推察できるので、蛇婿入りの類話と考えることも可能だろう、とのことです。(「奄美文化を探る」収録,福田晃著「水乞型蛇聟入の古層」p.129)
このお話しに準ずる伝承例として、韓国の「ヒキガエルの婿」というお話しがあります。「蛇物語百」の中でも。あらすじではありますが紹介していますので、興味があればご覧ください。→(こちら)