このWEBコラムでは、蛇にまつわる日本の昔話を「トークノベル形式のものがたり」でお届けしています。人物の挿絵や状況描写イラストはイメージです。また、登場人物の台詞を現代的な言葉遣いに変更したり、制作者の解釈で付け足したりして再話しています。元のお話の意図を失わないよう意識しながらの制作に努めていますが、そういった営為は「解釈」ぬきには行えないことをご了承ください。利用した出典は明記しておりますので、気になる方はご活用ください。
※このコンテンツは、イラストや動画や、動くエフェクトが使用されています。通信環境の良いところでご覧になられることをおすすめいたします。また、アニメーションの影響で、まれにめまいを覚えられる方や気分が悪くなられる方もいらっしゃいます。体の異変を感じた場合にはすぐ視聴を休止し、安静になさってください。
はじまり、はじまり…
「常陸国風土記 蛇息子」物語
今は「朝房山」と呼ばれている哺時臥山という山があります。
※クレフシ山=朝房山 説は諸説あります。
そこに、努賀比古・努賀比売という兄妹が2人で住んでいました。
兄です
妹です
ある夜。
努賀比売が部屋にいると、
名前もわからない謎の男性がやってきました。
あなたは…どなた?
…以前あなたをお見かけし、それからあなたの事が忘れられず…月の明かりを頼りに、ここまでやって参りました。
男は、夜来ては努賀比売に求婚して、明るくなると去っていきました。
そんなこと繰り返しているうちに、
ついに努賀比売は謎の男と夫婦になり、
一晩で子どもを妊娠します。
そうして、月が満ち。努賀比売は小さな蛇を産みました。
母さん、今日料理していたあれは何ですか?
あれは努賀比古…あなたの叔父が採って来てくれた蓮根というものよ。このあたりの蓮根はとくに味が甘くて滋養もあって、病気の時に食べると治りが早くなるのよ。
あなたもおいしさが伝わればいいけれど、やっぱり野菜はたべないのよね
そうですね、そういったものはやっぱり僕の体には合わないみたいです。
その様子に気づいた努賀比古は、努賀比売に詰め寄りました。
…努賀比売、ちょっとこっちに来なさい!
きゃっ
あの子は、言葉が話せるのか?明るいうちは何も言わないから、てっきり話せないものと…
明るいうちは話さず、日が暮れるとああやって話すの。
――…神の御子なのではないか。お前が夫婦の契りを交わした相手はきっと神だったのだ。
…そうかもしれないわね。
神の子なら、しかるべき祀り方をすべきじゃないか。祭壇を設けるから、清い器に乗ってもらって、そこに居ていただこう。
しかし、蛇の息子は一夜の間に杯の中に満ちるほど大きくなりました。
なんてこと。もう一回り大きな器を用意しなくては…
そうやって、器を替えては、ひらかの内に満ちみちるように大きくなっていきます。
そんなことが3回も4回も繰り替えしているうちに、ついに器がなくなってしまいました。
とうとう、母であるヌカビメは、蛇の息子にこう言いました。
あなたは神さまの子だということがよくわかりました。…私たちではこれ以上養うことが出来ないわ。
あなたの父君のおられるところに帰りなさい。…あなたはここにいるべきではない存在なの。
そんな、母さん、嫌です…うっ…うっ…
おお、よしよし…私だってお前と別れるのはつらいのよ… …
…つつしんで、母さんの命令を承ります。けれど、ひとつお願いがあります。
だれか一人、童をお供につけてほしいんです。
お供…といっても、この家にいるのは私と私の兄…つまりお前からすると叔父のヌカビコだけなのよ。お前も知っているでしょう。
あなたのお供にしてやれるような童はいないわ…
えっ…
蛇の息子は不満に思ったのか、
それから口をきかなくなってしまいました。
そうして、決別の時。
もう別れの時が来たのよ、どうか機嫌を直してちょうだい。嫌な気持ちでお別れなんて、あなたも後悔することになりますよ。
…ッ …ッ(怒気)
どうかお前の父君によろしく伝えてくれ。
…ッ …ッ …ッ(怒気)
待って兄さん、近寄ってはダメ!様子がおかしいわ!
…ッ …ッ …ッ
うぁぁぁぁああ!!!
そうして蛇息子は、伯父であるヌカビコに雷を落として殺し、
そのまま天に昇ろうとしました。
ちょっと、お前、待ちなさいっ!
ヌカビメは驚いて、
器を取って天に昇ろうとする蛇の息子に投げました。
こうして蛇息子は天に昇らず、クレフシ山の峰に落ち、そのまま留まることとなりました。
蛇の息子を盛った器は、今も片岡の村にあり、
ヌカビメの子孫たちは、お社を建ててお祭りをしてきたということです。
おしまい。
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資料や補足
元の採集場所や文献 | |
制作者が参考にした文献 |
晡時臥山は常陸国風土記の那珂郡の条に記された山。この山についていくつかの民話・伝承が残されている。茨城県水戸市、笠間市および、城里町に跨る朝房山であるとされる。
ウィキペディアより
地元では哺時臥山を朝坊山と呼んでいる。201メートルの山だが、神秘な山となっている。水戸市大足ではダイダラボウ伝説と結びついている。西南には高い山があって、半日は日陰となり、日の暮れるのが早く、仕事にならなかった。それで、ダイダラボウに山を動かしてもらったというのである。この山をクレフシ山というのは、日暮れを防いだという意味だという。
(『常陸国風土記』と民話 今瀬 文也より)
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「この説話の本来の姿は、晡時臥山の神を里の女が祭壇に杯をすえて祭り、その神霊が瓮をすゑて祭り、その神霊が瓮にやどった、というものであろう」(202 頁)とし『万葉集』巻3をあげ、家に祭壇を立てて斎瓮をすえ、神を祭祀することが各地の女性によって行われていた。そのことから、一晩のうちに蛇が一杯になった
ことを、神霊が宿ったとこと記している。((『常陸国風土記』と民話 今瀬 文也より))
かなり私の解釈で色付けした再話となります。気になる方は元の書き下し文などお読みください。
一番悩んだのが、蛇息子がヌカビコを殺した描写なので、それだけもう少し補足します。このトークノベルでは「伯父を震殺して天に昇らむとする時に、…」とあったのを『雷で殺した』ととれる表現で再話しました。他のコンテンツなどでそう解釈されていた方がいらしたり、「震」の意味を調べた時に『雷が鳴りひびいて万物がゆれ動く。ふるう。ふるえる。』とあったので、私もそれに倣いました。そのあたりご了承ください。