このWEBコラムでは、蛇にまつわる日本の昔話を「登場人物紹介」「あらすじ」「トークノベル形式のものがたり」でお届けしています。人物の挿絵や状況描写イラストはイメージです。また、登場人物の台詞を現代的な言葉遣いに変更したり、制作者の解釈で付け足したりして再話しています。元のお話の意図を失わないよう意識しながらの制作に努めていますが、そういった営為は「解釈」ぬきには行えないことをご了承ください。利用した出典は明記しておりますので、気になる方はご活用ください。
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「龍になった甲賀三郎」おもな登場人物・あらすじ
登場人物(登場順に紹介)
三郎
立科山のふもとに住む三兄弟の末っ子。
太郎
立科山のふもとに住む三兄弟の長男。三郎をねたんで罠にかけ殺そうとする。
次郎
立科山のふもとに住む三兄弟の次男。妻を亡くしており、三郎が羨ましい。太郎と共謀して三郎を罠にかけ殺そうとする。
三郎の妻
美人。
謎の老婆
穴に落ちた三郎に餅を食べさせ、
四季がある村の村人たち
美しいお姫様
2人は三郎がクマに食われてしまったと嘘をつく。三郎の妻は気が違ってしまったように山に駆け出していき、三郎を呼ぶ妻の声だけが3~4日山に響き渡る。
村人たちは三郎をもてなし、姫のいる御殿へ連れて行く。三郎と姫は結婚し、子どもをもうける。
9年の月日が流れたころ、三郎は本で、自分たちのいる地下の国以外に地上にも国があることを知る。
すると忘れ去っていた妻の顔が思い出され、悲しみのあまり姫に「一日だけ地上の国へ返してほしい」と懇願する。
姫は三郎の悲しみように覚悟を決め、9つのおむすびを渡して送り出す。そのおむすびは1つ食べると長い間何も食べなくて済むというふしぎなおにぎりだった。
変わり果てた自分悲しんだ三郎は池のほとりで泣いていたが、それでも美しい妻の姿をひとめ見ようと立科山を目指して這い出す。しかし妻の姿は見つからず、三郎は泣きながら立科山をかけめぐる。三郎の鳴き声は暗雲を呼び、山と谷は深い霧で包まれる。
そんななか、西の諏訪湖のあたりに一筋の光がさしているのを見つけ、そこから三郎を呼ぶ女の声を聴く。その声が妻の声だとわかった三郎は、暗雲に乗って諏訪湖へ飛び立つ。
妻は悲しみのあまり諏訪湖へ身を投げ、そのまま龍の姿になって湖の底に沈んでいたという。
美しい妻のところに1年、そして地下のお姫さまのところへ1年と通っていく三郎の通る道だと言われている。
はじまり、はじまり…
「龍になった甲賀三郎」
むかし、立科山のふもとに甲賀太郎、次郎、三郎という三人の兄弟がおりました。
一番下の三郎は、大変正直で、勇気があり、頼もしい若者でしたので、父の遺言どおり、家の後を継ぎました。
末っ子だけど我慢できるやつです
そして、それは美しい妻を迎えて、一番幸福な生活を送っていました。
三郎の妻です
そんな三郎のことを、兄の太郎と次郎は羨んでいました。
家督も継いだ挙句あんな美しい嫁をもらいおって…
とくに次郎は、意地悪なうえに、妻に亡くなられるなどの不幸が続いため、心が荒れていました。
三郎が憎い…憎い…
目障りだ…あいつを殺してしまえば俺たちは幸せになれる…
次郎の三郎を羨む気持ちは日に日に強まり、ついに、兄・太郎と相談して、三郎を殺す計画をたてました。
なあ三郎、狩りに行かないか?
そこである日、二人は三郎を誘って蓼科山に向かいました。
そして、ふたりは三郎を蓼科山の山奥にある、深い人穴に連れていったのです。
これは、父上からの遺言でな。今まで秘密にしておいたことなんだがな…
実は、蓼科山のこの人穴の底には、宝玉のいっぱいつまった箱があるらしいのだ。3人で力を合わせて、さがし出そうじゃないか。
この穴に降りていき宝玉を手に入れ、甲賀家をいよいよ立派にしていこうではないか。
甲賀家の宝がここに?わかりました兄さん!家督を継いでいる私がまず行って取って参ります。
兄ふたりが言うので、甲賀家の後をとっている三郎は、進んでその役を引き受けました。
三郎は、兄たちが持つ丈夫な藤の蔓につかまって、深い穴を降りて行きました。
が、兄たちが計画通り、途中でその蔓を切ってしまったので、三郎は深い穴の底へ落ちてしまいました。
うああああああ!
!あの人が、クマに襲われた…!?
俺たちも戦ったんだが、とても太刀打ちできる相手じゃなかったんだ…すまん…すまんな……
なあ、悲しいのはわかるが、泣いても死人は帰ってこんしな…
そう、俺の嫁も死んだからわかるよ。なあ、三郎のことは忘れて俺の嫁にならんか?
うそよ、うそようそよ…!
三郎の妻は気がちがったように叫びながら、駆け出していってしまいました。
あぁああああああぁおおぉぉぉ!!!
さぶろうやーい…
さぶろうやーーーい…
やーーーいやーい…
やーーい…
そうして、三郎を呼ぶ妻の声だけが山に響き渡っていました。けれど、その声も3~4日たつと消えていきました。
どのくらいたったでしょうか。穴の底で気を失っていた三郎は、ようやく我にかえりました。
まんまとはかられた…。宝玉など最初からなかったのだ。
さて、この穴からどう抜け出たものか…。
三郎は、まっ暗な中で、目をつむり、手を合わせて、じっと神に祈りました。
すると、やがて目の前が明るくなってきたので目を開けると、ひとりの老婆が立っていました。
あんたは、苦しんでいる、悲しんでいる。それをいやすアワの餅をあげましょう。
といって、湯気の立つ餅を右手に持って、差し出すのでした。
も、餅…?こんな状況で餅など…それに、あなたは一体…
三郎がためらっていると、また、老婆が言いました。
地上のことを思っているうちは、地上へもどれません。さあ、迷わずこの餅をおあがりなさい。
そこで、三郎がそのアワ餅をもらって食べると、不思議なことに、妻のこと、兄のことなど、いっぺんに忘れてしまいました。
ぼーっ…
三郎が餅を食べ終わると、老婆は左手をのばして指さしました。見ると、さっきまでわからなかった岩の壁に、穴が開いていました。
この道を、どんどん左へ進みなさい。
やがて、地中の国へたどりつくだろう。それからあとは、また運命にまかせなさい…
というと、姿を消してしまいました。
進んでみよう…
三郎は言われた道を進んで行きました。すると、やがて里にたどりつきました。その里は、こちらでは梅が咲き、向こうには新緑がしげり、また向こうでは赤とんぼが飛び、そのまた向こうには雪が降る不思議な里でした。
なおも進むと、小川があって、橋がかかっていました。 橋のたもとには村人が立っていて、三郎によびかけました。
あなたは、地上の国からおいでになった方ですね。よくおいでくださいました。この国のお城へご案内いたしましょう。
見ると川向うに、立派なお城がそびえていました。三郎は、桃の花の咲く丘をこえて、お城につきました。
お城には、美しいお姫さまがいて、たいへん喜んでむかえてくれました。
まあ、この村にたどりつかれるとは…まあまあ…どうぞこのお城でゆっくりお過ごしくださいませ。
そして、めずらしいご馳走を出してもてなしてくれました。
どうか、三郎さまさえよければ、ずっとこのこの屋敷にいてくださいませんか。わたくしと一緒に…
やがて三郎はお姫様と結婚し、何不足なく、楽しい生活を送るようになりました。
9年の月日がたったある日、三郎は本を読んでいました。
むむ…この世界には…この地下の国以外にも国があるのか…?
この国以外にも国があることを知った三郎は、やがて地上のことを思い出すようになりました。
遠いむかし、狩りをして山野をかけめぐったこと、美しい妻との生活のこと……
それは汲めども尽きぬ泉のように、あとから、あとから、思い出されてくるのです。三郎は、ハラハラとなみだを流しました。
それに気づいた姫は三郎に問いました。
三郎さま、なぜ泣いているのですか?
どうかこのわたくしめにも、悲しいわけをお話しくださいませ。
そこで郎は、正直に地上でのことを話しました。そして姫に
……地上へ、帰らせてくれ……
と頼みました。
…
…あなたは、地上へもどると不幸になられるように思われてなりません。どうか地上のことは忘れて、この城にいつまでも留まってくださいませ。
といって、諫めました。 しかし、一度思い出した地上での思い出は、三郎の心をつかんではなしません。
それから三郎は、もの思いにしずむようになりました。 姫はそんな三郎をなぐさめましたが地上を思う三郎の気持ちは、つのるばかりでした。
そこで姫は、とうとうあきらめ、
三郎さまがわたくしを愛してくださるように、地上の奥方さまを思う気持ちはよくわかります。それほど願われているのであれば、仕方ありません、地上へもどる道をお教えしましょう。
と、言ってくれました。
!ほんとうか!
旅の支度も整い、いよいよ出発することになった三郎に、姫は包みを差し出しました。
この中に、おむすびがはいっています。このおむすには、一つ食べただけで、長い年月何もたべないですむおむすびです。九つあるので、これが終わる頃には、きっと地上へでられましょう。
長い間ありがとう。では、元気で暮らしておくれ。
たいへんな旅ですが、お教えした道を、がんばってお進みください。
名残をおしむ姫に見送られて、三郎は、暗い地中の道を一心に進みました。
地中の国へ入る時に比べて、それはそれは険しい、苦しい旅でした。
ひとつめのおむすびの効き目が失せて、ふたつめのおむすびを食べたあとには、一段と険しく、苦しい道が待っていました。
そして、三つ、四つ……七つと進むにしたがい、いよいよ大変になるのでした。
こうして、幾月、幾年たったことでしょうか。
ある日、かなたに、かすかな光がさしてきました。
おお、光だ!いよいよ地上へ出られるぞ!妻に会えるぞ!
三郎がなおも懸命に進みますと、まもなく、子どもたちのはしゃぐ声がかすかながら聞こえてくるではありませんか。
あ、まぶしい、地上だ!
三郎は地上へ頭を出しました。
そこは、浅間山のふもと、真楽寺の大沼のほとりでした。
三郎が思い切り、体をのり出すと、池のほとりで遊んでいた子供たちが、
キャー!竜が出た!!こわいようー!
と叫びながらにげていきました。
その声におどろいた三郎は、澄んだ池の水に自分分の体を映してみますと、たしかに、体が竜に変わっているではありませんか。
やっと地上に出られたと思ったら、こんなすがたに…
三郎は、あまりにかわり果てた自分のすがたに、悲しくなって、しばらく、池のほとりにたたずんでいました。
佐久の平が、広がっています。はるかかなたに、なつかしい蓼科山がそびえています。
……ここにいても仕方ない……。蓼科山の俺の家に行ってみよう。妻が待っているかもしれないし。
三郎は、蓼科山のほうへと這い出しました。三郎が進むと、やわらかい大地は削られて沢になりました。
しばらく進むと、森に出ました。ふり向くと、尾はまだ、大沼の池から出切っていません。
頭が、蓼科山につくころ、尾はまだ、前山の尾根にたれていました。
こうして、竜になった三郎は、蓼科山、八ヶ岳などの山野を、妻をもとめて、さがしまわりました。
が、どんなに妻をさがしても、妻はとうとう見つかりませんでした。
三郎は、悲しみのあまり、黒雲をよびおこし、狂ったように妻の名をよびました。
そのとき、はるか西の諏訪湖のあたりが明るくなって、三郎に答える懐かしい妻の声がかすかに聞こえてきました。
ああ、妻だ!
三郎は、黒雲に乗って一気に諏訪湖に向かいました。
ああ、お久しゅうございます三郎さま。
貴方様が死んだことが信じられず、あなたを探し求めて、幾日も幾日も、山野をかけめぐっていました。悲しみのすえやがて諏訪湖に身をしずめて、竜になっていたのです…
竜になった三郎は、竜になった妻とようやく諏訪湖でめぐり会うことができました。
今でも冬が来て諏訪湖に氷がはりつめると、上の宮のある中洲村の湖畔から下諏訪の宮のへかけて、一夜のうちに氷の山脈ができるのは、美しい妻のところに1年、そして地下のお姫さまのところへ1年と通っていく三郎の通る道だと言われています。
おしまい、おしまい。
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資料や補足
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制作者が参考にした文献 | 松居友著『昔話の死と再生』 |