パレスチナ・アラブ民話における「蛇の餌が蛙である由来-蛇が嫌われ者の由来」(あらすじのみ)

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このWEBコラムでは、蛇にまつわるアラブの民話を「あらすじ」でお届けしています。『お話の筋は変えずに削る』方向性の再話ですので、元のお話の意匠は取りこぼしている可能性が大いにあります。気になった方は参考元の書籍もぜひお手にとってみてください。

アラブ民話「この世で一番おいしい肉」あらすじ

① 悪魔イブリース、天国へ入る手伝いの報酬として「この世で一番おいしい肉を食べさせる」ことを蛇に約束する

(導入)もうお話ししたでしょうか、それとも、まだだったでしょうか。

悪魔(イブリース/サタン/シャイターン)は、主の御意志に従うのをよしとせず、天国から追放された。

イブリースは何とかして天国に忍び込もうとしたが、天国の柵は堅牢で、侵入できなかった。

そこでイブリースは、いろいろな動物たちに天国へ入る手伝いをしてくれないか頼んで回った。

どの動物もイブリースの頼みを断ったが、蛇だけはイブリースの交渉に応じた。

イブリースの交渉とは

「この世で1番おいしい肉をあげる代わりに、天国に帰る手伝いをしてくれないか?」というものだった。

蛇は、その「この世で1番美味しい肉とは何か」と尋ねた。

「アダムの息子の肉さ」とイブリースは答えた。

それを聞いて、蛇はイブリースの頼みを引き受けた。

②「一番おいしい肉」を要求する蛇。燕の介入により「本当に一番おいしい肉は何か」蚊に決めてもらうことになる

蛇は、イブリースを自分の右の毒牙に隠し、天国の門を通り抜けた。

こうして天国に戻ったイブリースは、イブを唆し、イブとアダムとその末裔である私たちにこの世のあらゆる災いが降りかかるようになった。

さて、災いの種を蒔いた当の蛇が、

約束の報酬をもらおうとしてアダムのところへやってきた。

すると、アダムとともにいた燕が「お前さんは、人間の肉がこの世で1番おいしいだなんて、どうやって知ったんだい?」と尋ねた。

燕はとても信心深い鳥である。毎年メッカにやってきて聖地巡りをするために南に飛んでゆく。燕は人間にとって親しい友人である。

このときも燕はアダムのそばにいた。

蛇は「イブリースがそう言ったこと」を伝えると、燕は

「お前さんはそう言うけどね、イブリースは悪魔だよ。あいつの言うことなんか信用できるわけないじゃないか」と言い返してきた。

そのやりとりを見ていたアダムはこんなことを提案してきた。

「いろいろ試してみて、なんの肉が本当にこの世で1番おいしいのか確かめるから、一年待ってくれ」

なんでも、蚊に旅に出てもらって、世界中の生き物の血をあじわってもらい、それで蚊になんの肉が1番おいしいのかはっきり教えてもらおうということだった。

蛇はアダムの提案を承諾した。

③旅に出た蚊と、その後ろをついて行った燕。燕の狙いは………

それから、蚊は旅に出た。そして、蛇も蚊にも気づかれないよう、燕はこの蚊の跡を追っていった。

約束の時がやってきて、蚊がアダムへ報告に向かう帰路についた。そのタイミングで、燕は「この世で1番美味しい肉は何であったか」を蚊に尋ねた。蚊は「それがね、1番おいしいのは人間の肉なんですよ」と答えた。

燕は聞こえないフリをしてもう一度聞き返した。そして、蚊がいっそう大きな声で返事を返そうと口をあけたとき――燕は蚊の舌をひっこぬいてしまった。

こうして、蚊がアダムのところへ帰ってきたときには、蚊は『ウィーン』という言葉にならない声しか出せなくなっていた。

そこで燕が口を開いて、「僕は蚊の友人で、信頼されています」と言った。

何匹かの動物は「それは本当だ、燕はいつも蚊の近くにいた」と証言した。

燕は続けた。

「蚊は『1番おいしいのは、蛙の肉だとわかりました』と私に告げたのです」

と。このときから永遠に、蛇の食べ物は蛙の肉と定まった。

人間の肉を食べ損なった蛇は、怒りと失望に駆られて燕にとびかかった。

燕は身をかわしたが、尾羽根をひとかみされてしまった。

これで、なぜ蛇があらゆる動物の中で嫌われているのか、なぜ燕の尾羽根が分かれているのかおわかりになりましたね?

アッラーが汝らと我らを守り給わんことを。(結び)

▽スクリプト協力しました

補足や資料

元の採集場所や文献パレスチナ
制作者が参考にした文献「アラブの民話」青土社:イネア・ブシュナク (編), 久保 儀明 (訳)
p.315~317

イスラム教の聖典である『コーラン』の原典はアラビア語で記されているが、そのアラビア語を話す人々が住む国々のことを「アラブ」と呼ぶ。

アラビア半島全域とイラク、シリア、レバノン、パレスチナ、ヨルダン、そしてエジプト、スーダン、リビア、アルジェリア、チュニジア、モロッコ、モーリタニアが含まれている。

これらの国々の公用語はそれぞれ「トルコ語」「ペルシャ語」「ヘブライ語」「パシュトー語(ダリー語)」であり、そこに居住しているのはあくまでもトルコ人、イラン人、イスラエル人、アフガニスタン人なのである。

「アラブ」と「中東」の違いとは何か? イスラム世界とはどこを指すのか?(プレジデントオンライン)

似たお話し

「蛇物語百」にこの類話は用意できていませんので、現時点で私が知った小噺を記します。アダムとハワー(エヴァ/イヴ)の誘惑を行ったのは「蛇に潜んだ悪魔イブリース」だったというのはクルアラーン(コーラン)の記述から来ているもようです。

ヘブライ語聖書では、アダムとエヴァを誘惑したのは「蛇」であるという描写があり、キリスト教はこれを「サタン(反逆する者)」が蛇に姿を変えて行ったと解釈するのがメジャーです。

(参考)
「死の神話学」収録:二宮文子◎中世南アジアのスーフィズムにおける「死」と「死者」「死の神話学」収録:岩嵜大悟◎聖書は死の起源についての神話を語るのか?

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