このWEBコラムでは、世界の蛇の異類婚姻譚(日本以外)を「あらすじ」で紹介します。
ユダヤ民話の蛇女房譚「女と蛇」あらすじ
(※)タイトルはピンハス・サデーによる便宜的な命名である可能性があります。
何年も何年も昔のこと、ある若者が砂漠の中で馬を駆っていると、そこに美しい娘が立っているのを目にした。
若者は娘に一目ぼれし、娘もまた若者に「妻にしてほしい」と言ってくるので、若者は娘を馬に乗せて彼女を連れて帰って結婚した。
(語り手)実際にはその娘は蛇だった。彼女は馬に乗ったハンサムな若者がやってくると、その若者と結婚しようとエバの娘(※)になりすましていたのである。
(※)…人間の女」の意味だと思われる。
何年か経ち、若者は病気になった。日に日に病状は悪くなり、医師は誰ひとりとして病気の原因を突き止めることができずにいた。
若者がいよいよ衰弱してきた、ある日。若者の妻が不在のタイミングで、托鉢僧がやってきて喜捨を求めてきた。しかし若者の様子を見た僧は、「なぜそんなに青白い顔をしているのか」と若者に尋ねる。
若者は、自分が原因不明の病に侵されていることとその嘆きを伝える。すると托鉢僧は若者の手相を見てきて、若者の妻が夜、部屋から出ていくことはないかと質問してくる。若者はそれに気づいたことはないと言うと、
「こんなことを言うのもなんだが、あなたの奥さんは蛇なんですよ」と宣言する。
にわかに信じられない若者であったが、僧はそれを確かめる方法として次のようなことを言う。
妻の作る夕食にこっそりと一握りの塩を入れて、寝室の水瓶をカラにして、部屋にはカギを閉めてカギを隠しておく。そして一晩起きていて、その様子を見ていること(自分の手に傷を作ってそこに塩を塗っておいて痛みで眠らないように、と)
若者は僧の言う通りにした。
夜中、妻はのどの渇きを覚えたようで目覚めて水瓶を探しはじめる。しかし水瓶の中に水はなく、外に出ようとしてもカギがかかっていて鍵も見つけられず出られない。そのうち彼女は横になって体をくねらせて蛇になり、戸口の隙間から身をよじって外に出た。妻だった蛇は井戸まで這って行って、その中に降りて行って水を飲んで上がってきて、また身をよじらせて部屋に戻ってきて女になりすまし、寝台の中にもぐりこんだ。
翌朝、若者は、戻ってきた托鉢僧にすべてを話した。托鉢僧が「自分の目で見た以上は、彼女を追い出そうとはしないのですか?」と聞くと、若者はそうすると答える。
托鉢僧は続けて、若者の妻に「パンを焼くよう言いつけ、あなたはオーブンを最高に熱しておいて、妻がパンをオーブンに入れようとかがんだタイミングで彼女の足をつかんでオーブンに入れてそのまま蓋をしてしっくいで固めるよう」に助言する。
若者は僧の言う通りにした。
次の日。托鉢僧がやってきてオーブンを開けてみると、そこには大きな黄金の花輪があった。僧がその花輪を手にしてみると、そこから花びらがひらひらと落ちた。それはかつて女の手のひらの小さな指だった。僧はその黄金の花びらを若者に渡すと、花輪のほかの部分をもって自分の家に戻っていった。
(参考:ピンハス・サデー編/秦剛平訳「ユダヤの民話 上」青土社 pp.133-134)
補足や資料
元の採集場所や文献 | アフガニスタンで口承されていたお話。 |
制作者が参考にした文献 | ピンハス・サデー編/秦剛平訳「ユダヤの民話 上」青土社 pp.133-134 |
若者の、「蛇と判明した妻に対する明確な殺意」は感じるものの、その実そんなに彼の感情が描かれてないように見えるのが面白いなぁと思いました。
ちなみに、「アフガンで暮らす最後のユダヤ人、女性や子どもなど30人連れて脱出」というのは2021年にあったそうです。