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このコラムでは、日本の昔話における「蛇」の異類婚姻譚の詳細な分類は話型について紹介していきます。とはいえ、
昔話の分類は、考察のための便宜的なものではある…(※)
…と、小松和彦御大が言っていたように(※)、今から紹介する分類はあくまで学術的な研究上でのものです。民間説話について「学術的な区別にとくに興味はない」という立場はまったくあり得ると思うので、そういう方はスルーでOKだと思っています。ただ、私自身は
昔話の分類は、考察のための便宜的なものではある…が、極めて重要な手段なのである。(※)
という小松和彦御大の言葉に、足りないながらも、心を尽くし、精神を尽くし、思いを尽くしたいと思ってしまい、そのためには「まず、知る」ということから始めるのが誠実だろうと思い至ったので…
そして、「昔話」「民話」といったものについて、お話そのものを語るコンテンツは(インターネットの海に)それなりにあっても、こういった分類や整理に関するコンテンツが少ない気がしたので、そのへんももう少し拡充させたいなぁ、と思ったので…このコラムを記します。
…とはいえ、一応付け加えさせていただくと、このコラムを記している人間にとっての「異類婚姻譚」の一番シンプルな定義は
人間の美女または美男と、鳥獣草木などの人でないものとが縁を結んだという昔話など
柳田国男「桃太郎の誕生」
くらいの抽象度ではあります。
また、ここで書いてあることは、ド素人が、複数の書籍をもとに構成したものであり、内容に関して第三者の監修なども受けておりません。正直なところ、可能な方はここに書いている参考文献を入手して直で読んだほうが7千億倍くらい「佳い」と思います。その入り口としてだけでも、どなたかのお役に立てば幸いです。
(※)小松和彦(平成30年)『鬼と日本人』株式会社KADOKAWAp.222
日本昔話における「蛇の異類婚姻譚」は大別すると『蛇婿(蛇聟)』と『蛇女房』
▽関敬吾による「日本昔話集成」「日本昔話大成」での整理
婚姻:美女と野獣(のちの異類聟) Beauty and the Beast | 異類女房譚 Supernatural wife |
---|---|
蛇聟入 (苧環型/水乞型/河童聟入型) | 蛇女房 |
鬼聟入 | 蛙女房 |
猿聟入 | 蛤女房 |
蛙報恩/蟹報恩 | 魚女房 |
鴻の卵 | 竜宮女房 |
犬聟入 | 鶴女房 |
蚕神と馬/蚕由来 | 狐女房 (聴耳型/一人女房型/二人女房型) |
木魂聟入 | 猫女房 |
天人女房 | |
笛吹聟 |
☆黄色いマーカーのものが、「蛇」が異類として登場する話型です。
▽小沢俊夫・稲田浩二責任編集による『日本昔話通観』での整理
異類聟譚(異類婿譚) | 異類女房譚 |
---|---|
蛇婿入 (糸針型/豆炒り型/立ち聞き型/嫁入り型/姥皮型/鷲の卵型/蟹報恩型/娘変身型/契約型) | 観音女房 |
蛇の求愛 | 絵紙女房 |
鬼婿入り | 竜宮女房 |
たら聟入 | 竜宮の婿とり |
くも婿入り | 絵姿女房 (難題型/物売り型) |
猿婿入り (嫁入り型/里帰り型/火焚き型) | 魚女房 |
猪婿入り | 貝女房 |
犬婿入り (始祖型/仇討ち型) | はんざき女房 |
天人女房 | |
星女房 | |
月女房 | |
蛇女房 | |
狐女房 (離別型/聞き耳型/田植え型) | |
熊女房 | |
猫女房 | |
蛙女房 | |
鶴女房 (離別型/謎解き型) | |
鳥女房 | |
木霊女房 | |
花女房 | |
しがま女房 | |
雪女房 |
☆黄色いマーカーのものが、「蛇」が異類として登場する話型です。
「蛇婿(蛇聟)」の話型は大ざっぱに5種類くらい、もうちょっと細かくすると9~10種類くらい
※日本の昔話における分類
苧環型 | 水乞型 | 河童聟入型 | 蛙報恩/蟹報恩 | 鴻の卵 |
①ある日、未婚のはずの娘の妊娠に親が気づく。問い詰めると、「夜な夜な謎の男がやってきている」事が判明。
②男の素性を確かめるために、針に糸を通したものを男(の袖や髪など)に刺すように親が娘に指示する。翌朝、帰って行った男の跡を、糸を追ってたどって行く。
③たどり着いた先は人家ではなく、そこで蛇が会話しているのを立ち聞きする。蛇は針の毒で永くないことをもう一疋の蛇に話し「人間の娘を妊娠させた」ことを話している。もう一疋の蛇が「しかし、もし人間が菖蒲湯に浸かって子供を堕ろしたらどうする(あるいは『桃の酒を飲んで子どもを堕ろしたらどうする』)と、秘密を漏らす。
④それを聞いた親は、立ち聞きした情報を元に蛇の子どもを堕胎させる。(あるいは、たらいいっぱいの蛇の子どもが生まれる)そしてお話の幕は下りる。
一人娘が毎日、機織りをしてしゃべっている。母が聞くと、侍が来ると言う。母が不審に思って覗いてみると、蛇であった。母は侍の袷の裾に針を三針縫えと教える。翌朝、糸をたどっていくと、庭の桜の木のなかに続いている。木のなかで蛇が苦しんでいる。蛇の親は人間を迷わせたからだ、という。蛇は、娘に蛇の子をはらませたから娘も死ぬと答える。親蛇は、五月の節句の蓬と菖蒲を煎じて飲み、たらいに水を汲んでまたがれば、蛇の子がおちて、人間の娘は助かる、という。娘の母はこれを立ち聞きして、そのとおりにして娘は助かる。蛇は死ぬ。(福島県相馬郡)
小松和彦「鬼と日本人」p.243
①旱魃などを解決した蛇に「娘をやる」約束をしてしまう。大体「畑を持っている父親」と「蛇」の間で契約が交わされる。
②3人娘の長女と次女は蛇との婚姻を拒否。末娘は承諾。そして、嫁入り道具を所望する。(「針千本と鏡」あるいは「水とり玉と針千本と火とり玉」あるいは「はんどう」など)
③蛇の許に嫁入りした末娘、所望した嫁入り道具を使って蛇を殺害に成功。
④末娘は実家に戻って幸福の内に幕が下りるOR「姥皮」話へつながる場合は、ここで「姥皮」を入手し、長者の家に雇われる。
⑤ある日長者の息子が、姥皮を脱いだ娘の姿を一目惚れする。恋煩いを起こしてしまった息子を心配して、長者は屋敷じゅうの人間を息子に会わせ、最後に末娘扮するお婆さんにその役割がまわってくる。末娘は姥皮を脱いで息子に会い、息子と結ばれて物語の幕が下りる。
▽正直なところ、こちらの定義は細かすぎて、現在インターネットで読める論文などをざっと眺めてみても、この分類で論文を構成している人はあまり見かけないような気がしました。ということで、ご参考までに。
糸針型 | 豆炒り型 | 立ち聞き型 | 嫁入り型 | 姥皮型 | 鷲の卵型 | 蟹報恩型 | 娘変身型 | 契約型 | (蛇の求愛) |
一人娘が毎日、機織りをしてしゃべっている。母が聞くと、侍が来ると言う。母が不審に思って覗いてみると、蛇であった。母は侍の袷の裾に針を三針縫えと教える。翌朝、糸をたどっていくと、庭の桜の木のなかに続いている。木のなかで蛇が苦しんでいる。蛇の親は人間を迷わせたからだ、という。蛇は、娘に蛇の子をはらませたから娘も死ぬと答える。親蛇は、五月の節句の蓬と菖蒲を煎じて飲み、たらいに水を汲んでまたがれば、蛇の子がおちて、人間の娘は助かる、という。娘の母はこれを立ち聞きして、そのとおりにして娘は助かる。蛇は死ぬ。(福島県相馬郡)
小松和彦「鬼と日本人」p.243
「蛇女房」の話型はおおざっぱにしても1種類…?
※日本の昔話における分類
蛇女房 |
①ある男が蛇を助ける→その晩女が家にやってくるor 訳ありげな女と出会う or 惚れて結婚を申し込む
②やがて女と男は子どもをもうけるが、女は外に小屋を作ってもらい、そこに移り住みお産が終わるまで決して覗かないでくれと言う。男は最初は承諾したもののの気になって小屋の中を覗いてしまう。
③小屋の中には、生まれたばかりの赤ん坊を抱えながらとぐろをまく大蛇がいた。見られたことに気づいた大蛇は女の姿に戻り、もう男とも子どもとも一緒には暮らせないと言い、自分の片方の目を取り出し、子どもにこれをしゃぶらせて育ててくれと言いその場を立ち去る。
④男は女に言われたとおり目玉をしゃぶらせながら子どもを育てる。 しかし、目玉はだんだん小さくなっていきついには無くなってしまう。or 噂を聞きつけた偉い人に取り上げられてしまう。男は泣く子どもの為女を捜しに行く。
⑤男は山奥の湖まで来て大蛇を見つけ、目玉がなくなったことを告げると、大蛇はもう一つの目玉を男に差し出す。(目玉を取り上げた偉い人に怒りをもやして洪水を起こす)。大蛇は、これで両目が見えなくなってしまったので、子どもが大きくなった様子を見る事ができないと言う。代わりに、子どもが大きくなったらお寺の鐘つき役にしてくれと男に頼む。
▽もうちょっとくわしいコラムあります
小松和彦氏による「日本の異類聟譚・異類嫁入り譚」の分類
また、小松和彦先生は、全体の話型の割合で見ると少数派ながら「人間の女が、異類婿に嫁入りしていく」型について、次のような整理・分類をされています。
小松和彦氏による 「異類聟・嫁入り」異類婚姻譚の分類(日本)
(A) | 「殺害」型 | 嫁入りの途中で異類を殺害する。厳しい排除、異類婚姻の否定の思想が現われている。 |
(B) | 「殺害・里帰り」型 | 短期間の夫婦生活があるが、里帰りの途中で異類の夫を殺害する、やや排除の姿勢がゆるんでいるといえる。 |
(C) | 「子ども誕生・逃亡」型 | 長期間夫婦生活を続け、子どもまでもうけるが、救出者が現われて人間界に戻る。さらに排除の思想が緩んでいる。子どもは「片側人間」。 |
(D) | 「幸福・里帰り」型 | 約束に従って嫁入りし、ときどき里帰りするが、異類の身になっているところを見られて去る。ほとんど排除の思想が見られない。 |
(E) | 「幸福・里帰り・子ども誕生」型 | 嫁入りし、子どもまでもうける。ときどき里帰りするが、母子ともに異類の見になっているところを覗かれて、子どもとともに立ち去る。 |
(F) | 「幸福・水辺出現」型 | 嫁入りしたのち里帰りもしない。水辺にときどき出現するだけである。蛇の子を伴っていることもある。出現する嫁は「片側人間」。 |
(G) | 「幸福」型 | 嫁入りしたあと、二度と人間界に姿を現すことがない。嫁に入ったのち完全に人間界との関係を断ち切っているので、異類婚姻をもっとも肯定しているといえる。嫁入り後やがて完全な異類になり、子どもをもうけたと推測されるのだが、もちろん昔話には記されていない。 |
歴史主義的な民俗学者ならば、これを歴史的変化としてとらえ、異類婚姻を積極的に認めていた時代から、それを否定していく新しい時代への変化の相を示すもの、つまり「異類聟・嫁入り」型の昔話は(G)から(A)に向かって変化したという具合に解釈するはずである。
しかし、同時に、私は別の角度からもこのような差異を理解すべきだと考えている。そうすることによってはじめて、二つのタイプの「片側人間」のイメージも理解しうるからである。(参考:小松和彦「鬼と日本人」p.223株式会社KADOKAWA 初版平成30年/第4版)
私の解釈の基本は、いつの時代にあっても程度の差はあるにせよ、民俗社会の人々の異類に対する態度は両義的なものであったであろう、ということにある。さもなければ、昔話におけるこれほど多様なかつ対照的な差異は生じなかったであろうし、また人々に受け容れられなかったはずである。
これは、異類が「蛇」に限ったことではなく、「河童」「鬼」「猿」などのケースもあるのでご注意ください。(参考:小松和彦「鬼と日本人」p.214)しかし、「異類聟譚」中、蛇婿譚は約6割ということですし、小松先生自身の著書でも、このお話は「蛇婿譚(蛇聟譚)」を補助線に語られています。
前述したように、日本の昔話では、自然のなかでの人間の存在そのものが語るべき関心事となっている。その意味で存在論的物語と言える。人間とそれをとりまく自然との間の緊張関係、そしてその緊張した関係のなかで人間がどうやって自らの存在を守っていくか、それが昔話のストーリーを形成している。
(昔話のコスモロジー―ひとと動物との婚姻譚 (講談社学術文庫)小沢 俊夫 p.227)
メモ状態…世界の蛇との異類婚姻譚…など…
花部英雄氏による「世界の蛇婿入り」
A.殺害タイプ | B.失踪タイプ | C.無変身タイプ |
※花部氏は「蛇聟入り」の国際比較ということでこれらの分類をされていいますが、求婚者(婿/聟)が蛇ではない動物(異類)であるものの含まれています。あくまで日本の「蛇聟入り」を考える際に含めて考える必要性があるものが取り上げられている、と考えるのが適切かと思います。気になる方は著書をお確かめください。
A.花部英雄による「殺害」タイプ蛇婿入り分類表
国名 | 題名 | 主人公の 環境 | 求婚者の 正体 | 変身 | 姉妹 (兄弟) 葛藤 | 転生 | 失踪 理由 | 夫捜し | 備考 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 台湾 | 蛇郎婿 どの | 姉妹 | ヘビ | 自由 変身 | 姉殺害 摩り替え | 小鳥、棗、 敷居、火の粉 | |||
2 | 中国 | 蛇の 婿どの | 3姉妹 | ヘビ | 自由 変身 | 妹殺害 摩り替え | 雀、竹、 椅子、 餅、女子 | |||
3 | ベトナム | 神の蛇 | 3姉妹 | ヘビ | 自由 変身 | 妹殺害 摩り替え | 青い鳥、 竹藪、 銀の指輪 | |||
4 | ベトナム | 蛇の夫 を娶る | 姉妹 | ヘビ | 殻 | (妹はシロアリになる) | ||||
5 | インドネシア | トカゲ王 | 4姉妹 | トカゲ | 殻 | 妹殺害 | 鶏、木に止まる | 皮を焼く | 小刀、針の死 | |
6 | インドネシア | リンキタン とクソイ | 9姉妹 | クスクス | 皮 | 妹殺害 計画 | 木に 吊るす | |||
7 | コーカサス | 三人 姉妹 | 3姉妹 | ヘビ | 皮 | 妹殺害 | チャルメラ、 灰、 ポプラ、桶 | |||
国名 | 題名 | 主人公の 環境 | 求婚者の 正体 | 変身 | 姉妹 (兄弟) 葛藤 | 転生 | 失踪 理由 | 夫捜し | 備考 |
B.花部英雄による「失踪」タイプ蛇婿入り分類表
国名 | 題名 | 主人公の 環境 | 求婚者の 正体 | 変身 | 姉妹 (兄弟) 葛藤 | 転生 | 失踪 理由 | 夫捜し | 備考 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 日本 | 天稚彦草子 | 3姉妹 | ヘビ | 皮 | 皮を切る | 唐櫃開封 | 難題 | ||
2 | 韓国 | 青大将の新郎 | 3人娘 | ヘビ | 皮 | 皮を焼く | 試練、花婿救出 | |||
3 | アルバニア | 蛇婚 | 娘 | ヘビ | 皮 | 皮を焼く | ||||
4 | マケドニア | テンテリナとおおかみ | 娘と兄 | オオカミ | 変身なし | ― | 妹と逃鼠 | |||
5 | シベリア | うそ鳥 | 嫁 | ウソドリ | 羽 | 羽を焼く | (花婿の救出) | |||
6 | シベリア | 三人兄弟の妹 | 娘と3兄弟 | ガチョウ | 羽 | 兄弟による退治 | 刀で撃つ | 花婿の救出 | ||
7 | ノルウェー | 白くま王ワレモン | 3姉妹 | ヘビ | 自由変身 | 松明の滴 | 花婿の救出 | |||
8 | スウェーデン | 白へび王子 | 3姉妹 | ヘビ | 自由変身 | ヘビと遍歴 | ||||
9 | フランス | 美女と野獣 | 3姉妹 | 雄ブタ | 魔法変身 | |||||
10 | フランス | ばら | 3姉妹 | ヒキガエル | 魔法変身 | 醜い動物ね | ||||
11 | フランス | ちいさなカラス | 3姉妹 | 羽 | 羽を焼く | 試練 | ||||
12 | ハンガリー | 物言うぶどうに房、笑うりんご、ひびく桃 | 3姉妹 | 雄ブタ | 魔法変身 | |||||
13 | ギリシャ | クビドーとプシケー | 3姉妹 | 変身 なし | 姉たちの唆し | 燈油の滴 | 試練 | |||
国名 | 題名 | 主人公の 環境 | 求婚者の 正体 | 変身 | 姉妹 (兄弟) 葛藤 | 転生 | 失踪 理由 | 夫捜し | 備考 |
C.花部英雄による「無変身」タイプ蛇婿入り分類表
国名 | 題名 | 主人公の 環境 | 求婚者の 正体 | 変身 | 姉妹 (兄弟) 葛藤 | 転生 | 失踪 理由 | 夫捜し | 備考 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | インド | わにとお百姓の娘 | 娘 | ワニ | 変身なし | |||||
2 | 北アフリカ | ろば頭のムハメッド | 娘と3人兄弟 | 人食い巨人 | 変身なし | 兄弟による退治 | ||||
3 | 北アメリカ | かにと結婚した女 | カニ | 変身 なし | ||||||
国名 | 題名 | 主人公の 環境 | 求婚者の 正体 | 変身 | 姉妹 (兄弟) 葛藤 | 転生 | 失踪 理由 | 夫捜し | 備考 |
パプア・ニューギニアの「海牛ジュゴン」(蛇女房との子どもの民話)
海牛ジュゴン
小澤俊夫「昔話のコスモロジー ひとと動物との婚姻譚」p.182
蛇が人間の娘を産むという珍しい話。その娘は成長して人間の若者の妻になるが、母が蛇であることを恥じて、夫にそれを打ち明けない。里帰りのときにも夫が同行することを拒む。(小川超訳「世界の民話」パプア・ニューギニア篇、31番)その部分だけは、日本の「蛙女房」と近いことが興味深く思われる。
台湾に住む民族のひとつ・「ルカイ族の昔話-バレン」丘陵民族
大昔ルカイ族の村からはなれた森の中には,蛇の神様が住んでいた.ある日,蛇の神様はルカイ族のバレン姫と出会い,その日から,よく一緒に歌いながら,畑の仕事をしていた.そして,お互いだんだん好きになった.
二重織技法の応用による作品制作―台湾の民話―(許 尚廉, 松本 美保子)
バレンは両親に結婚の許しをもらうように蛇の神様を家まで連れてきた.しかし,人間と蛇との結婚なんて許せ
ないことだとバレンの父親が考えた.それで,バレンの父は海の中で最もきれいな琉璃珠と貴重な陶器を持って
くることを条件として蛇の神様と約束した.バレンは忠実な心意を表すために百合の花を髪に飾り,蛇の神様の
帰りを待っていた.3年経って蛇の神様はすべての宝物を揃ってやってきて,やっと結婚できるようになって,
蛇の神様はバレン姫を連れ遠い森の中に戻った.すると,百合の花が山の湖の周りにたくさん咲いた.そして村の
平和を長年にわたって守ってくれたという伝説がある.いまでもルカイ族は蛇を神様として尊敬している.そし
て,少女やお嫁さんになる女性は百合の花を髪に飾っている.
蛇は世界中の多くの民族のあいだで崇拝されたり、またシンボルとして、もてはやされてきました。神話や説話、彫像、絵図などに、古くから登場しています。
(引用:「ガイドブック日本の民話」日本民話の会/編p.247)
わが国では、蛇が男に姿を変えて、人間の女性とちぎりを結ぶという三輪山神婚説話が、古い文献に記されています。『古事記』にのる話では、女性は懐妊しますが、男の正体がわかりません。そこで男の着物の裾に糸をつけて跡をたどっていくと、三輪山の神の社に到着しました。男は蛇身の大物主神(おおものぬしのかみ)であったのです。「蛇婿入り」の苧環型の話と構成はおなじです。蛇と女性とのあいだにできた子が一族の祖となるという、九州の緒方氏や越後の五十嵐氏の伝説には、蛇を神霊と見なす考えかたが背景にあるようです。蛇は脱皮や水陸両棲の習性を持つことから、蛇を神格化する観念が生まれたと説かれます。
しかし、時代が下ると蛇に対する信仰が失われ、蛇を忌避すべき邪悪なものとする考えかたがあらわれてきます。嫉妬のあまり蛇体に身を落とし、鐘の中の男を焼き殺してしまう「安珍清姫(あんちんきよひめ)」の話は、それを代表しています。
「蛇婿入り」の水乞い型で、枯れた田に水を与える水神としての役割を持つ蛇が、最後に殺されてしまうのも同様です。蛇の正体が発覚したために子を残して去る「蛇女房」も、あわれな結末をむかえてしまいます。
伝説として伝わる「蛇ケ淵」「蛇沼」には、おそるべき大蛇がひそんでいるとされます。これは、水神信仰が零落した形と言えます。蛇身となった「八郎太郎」を十和田湖から追い払うという伝説も、神から邪悪なものへと信仰をうしなった蛇が退治される姿と言えます。(花部)
ただし、日本では蛇を退治する話が主流であるのに対し、中国やヨーロッパでは異類が美しい若者に変身し、二人は結ばれます。日本の異類婚姻譚の中では「たにし息子」がその点で外国の話にもっとも近いものです。「うば皮」がついた「蛇婿入り」(※)では、結末で娘は長者の息子と結ばれますが、異類が人間に変身することはなく、前半に登場する蛇と、後半に登場する長者の息子とが同一人物ではない点が外国の話と異なります。(斎藤)
(引用:「ガイドブック日本の民話」日本民話の会/編p.186
(※)…水乞い型の蛇婿入りの後半に続く物語パターンの一種。蛇を退治した主人公の娘は老婆からもらったうば皮を身に着けて、きたない老婆に身をやつし、長者の家の火たき女にやとわれる。娘はやがて長者の家の息子に見初められ、長者のに家の娘になってめでたく終わる。
蛇は世界中の多くの民族のあいだで崇拝されたり、またシンボルとして、もてはやされてきました。神話や説話、彫像、絵図などに、古くから登場しています。
(引用:「ガイドブック日本の民話」日本民話の会/編p.247)
わが国では、蛇が男に姿を変えて、人間の女性とちぎりを結ぶという三輪山神婚説話が、古い文献に記されています。『古事記』にのる話では、女性は懐妊しますが、男の正体がわかりません。そこで男の着物の裾に糸をつけて跡をたどっていくと、三輪山の神の社に到着しました。男は蛇身の大物主神(おおものぬしのかみ)であったのです。「蛇婿入り」の苧環型の話と構成はおなじです。蛇と女性とのあいだにできた子が一族の祖となるという、九州の緒方氏や越後の五十嵐氏の伝説には、蛇を神霊と見なす考えかたが背景にあるようです。蛇は脱皮や水陸両棲の習性を持つことから、蛇を神格化する観念が生まれたと説かれます。
しかし、時代が下ると蛇に対する信仰が失われ、蛇を忌避すべき邪悪なものとする考えかたがあらわれてきます。嫉妬のあまり蛇体に身を落とし、鐘の中の男を焼き殺してしまう「安珍清姫(あんちんきよひめ)」の話は、それを代表しています。
「蛇婿入り」の水乞い型で、枯れた田に水を与える水神としての役割を持つ蛇が、最後に殺されてしまうのも同様です。蛇の正体が発覚したために子を残して去る「蛇女房」も、あわれな結末をむかえてしまいます。
伝説として伝わる「蛇ケ淵」「蛇沼」には、おそるべき大蛇がひそんでいるとされます。これは、水神信仰が零落した形と言えます。蛇身となった「八郎太郎」を十和田湖から追い払うという伝説も、神から邪悪なものへと信仰をうしなった蛇が退治される姿と言えます。(花部)
(水乞い型の蛇聟譚を指して)このタイプの昔話群のうちで、「蛇」が聟になる話のほとんどが、嫁入りして行く途中で人間の娘が知恵を働かせて蛇聟を殺してしまっている。したがって、こうした昔話を読む限りでは、水を支配するものとしての蛇(神)という観念が民俗社会にあるにもかかわらず、蛇と人間の女の婚姻に対しては、人々は否定的な考えを持っていたことになる。
(1998年小松和彦「異界を覗く」p.84洋泉社)
しかし、人びとの考え方がそれで一定したわけではない。たとえば、異類が「猿」になっている「猿婿・嫁入り・殺害」型の昔話では、同じ殺害であっても、嫁入りの途中での殺害と里帰り途中での殺害の二パターンがほぼ相半ばする形であらわれているからである。すなわち、後者の「猿聟・嫁入り・里帰り・殺害」型では、短いながらも一定の期間は猿聟と人間の嫁とが異類界で夫婦生活を送っていたのである。その点では「鬼の子小綱」の鬼聟と人間の女の間になされる数年間に及ぶ夫婦生活にやや近いと言えるであろう。
「異類聟・嫁入り」型の昔話をみる限りでは、「鬼」や「猿」の場合は、どちらかといえば、否定され排除される異類とみなされ、「蛇」の場合には、肯定と否定の間をさまざまな形で揺れ動いておるのがわかる。したがって、人びとは「蛇」に対してとくに両義的イメージを抱いていたらしい、ということになるであろう。つまり、「異類聟・嫁入り」型の差異の多様さは「蛇」に対する人びとの両義的態度の揺れの大きさを如実に反映しているわけである。
(1998年小松和彦「異界を覗く」p.92洋泉社)
蛇は世界中の多くの民族のあいだで崇拝されたり、またシンボルとして、もてはやされてきました。神話や説話、彫像、絵図などに、古くから登場しています。
(引用:「ガイドブック日本の民話」日本民話の会/編p.247)
わが国では、蛇が男に姿を変えて、人間の女性とちぎりを結ぶという三輪山神婚説話が、古い文献に記されています。『古事記』にのる話では、女性は懐妊しますが、男の正体がわかりません。そこで男の着物の裾に糸をつけて跡をたどっていくと、三輪山の神の社に到着しました。男は蛇身の大物主神(おおものぬしのかみ)であったのです。「蛇婿入り」の苧環型の話と構成はおなじです。蛇と女性とのあいだにできた子が一族の祖となるという、九州の緒方氏や越後の五十嵐氏の伝説には、蛇を神霊と見なす考えかたが背景にあるようです。蛇は脱皮や水陸両棲の習性を持つことから、蛇を神格化する観念が生まれたと説かれます。
しかし、時代が下ると蛇に対する信仰が失われ、蛇を忌避すべき邪悪なものとする考えかたがあらわれてきます。嫉妬のあまり蛇体に身を落とし、鐘の中の男を焼き殺してしまう「安珍清姫(あんちんきよひめ)」の話は、それを代表しています。
「蛇婿入り」の水乞い型で、枯れた田に水を与える水神としての役割を持つ蛇が、最後に殺されてしまうのも同様です。蛇の正体が発覚したために子を残して去る「蛇女房」も、あわれな結末をむかえてしまいます。
伝説として伝わる「蛇ケ淵」「蛇沼」には、おそるべき大蛇がひそんでいるとされます。これは、水神信仰が零落した形と言えます。蛇身となった「八郎太郎」を十和田湖から追い払うという伝説も、神から邪悪なものへと信仰をうしなった蛇が退治される姿と言えます。(花部)