蛇のツノ-貧しい男に同情して角を与えたアイヌの蛇神

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このWEBコラムでは、蛇にまつわる日本の昔話を「トークノベル形式のものがたり」でお届けしています。人物の挿絵や状況描写イラストはイメージです。また、登場人物の台詞を現代的な言葉遣いに変更したり、制作者の解釈で付け足したりして再話しています。元のお話の意図を失わないよう意識しながらの制作に努めていますが、そういった営為は「解釈」ぬきには行えないことをご了承ください。利用した出典は明記しておりますので、気になる方はご活用ください。

※このコンテンツは、イラストや動画や、動くエフェクトが使用されています。通信環境の良いところでご覧になられることをおすすめいたします。また、アニメーションの影響で、まれにめまいを覚えられる方や気分が悪くなられる方もいらっしゃいます。体の異変を感じた場合にはすぐ視聴を休止し、安静になさってください。

はじまり、はじまり…

「ヘビ神のツノ」物語

むかしむかし、オサツナイに住む男がいました。

男はオサツナイにある大きな村がで暮らしていましたが、貧乏人でした。

彼は村の一員でいることは恥ずかしく思っていたので、村はずれに小さな家を建ててひとりで暮らしていました。

男は、山猟に出ても獲物を獲ることができませんでした。

ああ、今日も一羽のウサギも獲れなかった…。川に行った時も一尾の小魚も獲れなかった…。狩もダメ、釣りもダメ…ああ、恥ずかしい。

彼は、自分が村の一員であることを本当に恥ずかしく思っていました。

俺は生きている価値がない人間だ…いっそどこかへ行って死んでしまってもいいな…。

ふと、そんな事を考えた男は、ある日、家を出て行き海辺に出ていきました。

男が海沿いをどんどん進んで行くと…

男の前方から何やらピカピカと光ものがやって来る様子が見えました。

そのピカピカ光るものは、やがてすぐに男の前まで来ました。

それは、角の生えた大きなヘビでした。

二本の角が生えた蛇

!!!

男は驚きました。

しかし、ハッと我に返って、着ていた上着を脱いで畳み、カムイが鎮座するところを作りました。

ヘビの神は、男が畳んだ着物の上にツノを落とし、そしてまた戻って行きました。

男は何度も拝礼をし、その角を自分の着物で巻いて家に持って帰りました。

(これは、カムイからの授け物をではないだろうか…)

そう思った男は、その角を箱の底に入れておくことにしました。

それからというもの、男の生活は一変しました。

山猟に行くとウサギやキツネが取れ、川に行くと魚も獲れるようになったのです。

シカやクマも獲れるようになった…!食べるものにも困らないし、何より自信がみなぎってくる…!ああ、俺は生きていていいんだ…!

男は、自分が貧乏人であったことを忘れ、裕福になったことを喜びました。

ある日、村長が男の家に遊びに来ました。

村長

何やら最近、楽そうに暮らしてらっしゃるようじゃな。

村長は、いろいろ尋ねてきました。そうして話しているうちに…

村長

若者よ、何か秘密の授かりものをもらったのだろう?

…と、男が裕福になった秘密を探ってきました。

な、何もありません。どうやって秘密の宝物なんて持てるのと言うのですか。

問いつめられても、何もありませんよ。

そう言うと、村長は帰って行きました。

村長が帰ると、男は山猟に出かけシカやクマをとって来てはひとり喜びました。

後日、またあの村長がやってきました。

村長

先日はロクなものも持たずに長居してすまなかった。今日は食べ物や酒を持ってきたから、たらふく食べて飲んでくれ。ひとり暮らしでは食べられんようなものを持ってきたからな。

村長に出された酒を飲み、男がひどく酔った頃合いに、村長はまた尋ねました。

村長

で、その秘密の宝物はどんなものなんだね?

いや、ですから、何もありませんよ

男はかたくなに口を割りませんでした。

しかし、村長にどんどんお酒をすすめられるうちに、ついに酔っぱらってしまい――あの秘密の角を見せてしまいました。

すると、それを見た村長は言いました。

村長

ふむ、無理やり出させてしまって申し訳ないので私が買おう。家に持って帰ってじっくりみて見たいしな。

そうして、村長はあの角を持って帰ってしまいました。

翌日、男はあの角を村長にあげてしまったことを後悔して、頭から着物をかぶって寝ていました。

あああ、私はなんてことをしてしまったんだ。あれは神から恵んでもらった大事なものだったのに…また貧乏人の生活に戻るのだろうか…

それからは、山猟に行っても川へ行っても貧乏だったころのように何も獲れなくなりました。

男は腹を立てて、着物をかぶって寝てばかりいるようになりました。

…ああ、食べ物もないし、力が出ない…もう死ぬのではないか…

そんな事を思いはじめたある夜、男は夢を見ました。

…どうして私があげたを村長に渡してしまったのですか…

あれは、あなたに授けたもの…
あなたは貧乏人だけれど、心がきれいだったので与えたのです…

…村長があの角を持って箱の底に入れていても,彼が裕福になることはありません。

…私はヘビの神です。

明日になったらあの村長が角を持って来るように仕向けます。

あなたがあの角を持てば、再びあなたは裕福になります。

これからまたあなたを守ってあげましょう。

あの角が来てあなたが裕福になったなら、

美味しい酒を作り上等の木幣を作ってその木幣でヘビ神の人形を作り海に持って行って

『ヘビの神、尊い神に祈りますと』言って木幣で作ったヘビの人形を海に流しなさい。

そうしたら、私はまたあなたに良くしてあげしょう…

…という夢を見ました。男は喜んで何度も拝礼をしました。

翌朝、本当に村長が角を持って来て私に謝罪の言葉を何度も言ってきました。

村長

先日はすまなかった、よくよく考えると無理強いをしたなと思いなおしてな。角を戻しにきたんじゃ。本当にすまなかったな…

なので、男は箱の底に角を入れ、そして神が言っていた通り、すぐに酒を造り木幣をたくさん作り…

ヘビの神、尊い神にお祈りします

…と言いながら海に持って行って流しました。

それからまた山猟に行くとシカやクマが獲れるようになり、また裕福な人になりました。

そのうちにどこからかきれいな女性がやって来て、男と一緒に暮らしました。やがて子どももできました。

…私は年老いてから初めて妻を持ったので、子どもたちが大きくなるのを見ることもなく死んで行きます。ですが子どもたちにヘビの神に祈ることを決して忘れないようにと伝えていきたいのです。ですのでこのお話しします。

…と、オサツナイの人が物語りましたとさ。

おしまい、おしまい。

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補足や資料など

於札内オサツナイについて…浦臼町内の地名,川名(石狩川支流)。札沼線於札内駅あり。鶴沼駅のする北を於札内川が流れている。オ・サッ・ナイ(o-sat-nai 川尻・乾く・川)の意。

山田秀三「北海道の地名」草風館 p.49 より引用

→この引用はこちらのウェブサイトで拝見しました。

元の採集場所や文献下記ウェブサイトを参照
制作者が参考にした資料C211. ヘビ神のツノ(アイヌの自然デジタル図鑑)

元のお話(ウウェペケレ)は一人称ですが、このお話しは三人称で構成しています。ぜひ元のお話しを読んでみて、印象の違いなどあれば教えてください。

冒頭に挿入した「国土地理院」の地図は、だいたいの位置のイメージを掴むためのものです。「於札内」で調べたときに一番海に近い場所をピックアップしましたが、於札内と名の付くところはほかにもいくつかあり、正確なところはわかっておりません。アイヌのウウェペケレが、現実の場所とリンクさせて考えるのが適切なものなのかすら、現状、制作者は理解しておりません。当コンテンツはお話の構造が主眼のコンテンツとして制作しておりますので位置情報についてはややあいまいなまま発信しております。ご存知の方がいらっしゃいましたらコメント欄などで教えていただけますと幸いです。


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