見初めた娘をモノにしようとしたが野望が潰えたアイヌのマムシ神-イヌエンジュの神に助けられた娘

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このWEBコラムでは、蛇にまつわる日本の昔話を「トークノベル形式のものがたり」でお届けしています。人物の挿絵や状況描写イラストはイメージです。また、登場人物の台詞を現代的な言葉遣いに変更したり、制作者の解釈で付け足したりして再話しています。元のお話の意図を失わないよう意識しながらの制作に努めていますが、そういった営為は「解釈」ぬきには行えないことをご了承ください。利用した出典は明記しておりますので、気になる方はご活用ください。

※このコンテンツは、イラストや動画や、動くエフェクトが使用されています。通信環境の良いところでご覧になられることをおすすめいたします。また、アニメーションの影響で、まれにめまいを覚えられる方や気分が悪くなられる方もいらっしゃいます。体の異変を感じた場合にはすぐ視聴を休止し、安静になさってください。

はじまり、はじまり…

「イヌエンジュの神に助けられた娘」物語

イペッ川の川上の村の村長は、妻とひとり息子とひとり娘の4人家族で暮らしていました。

家族はみんな働き者だったので、村長の家族は何の不自由もしていませんでした。

 ひとり娘が年頃になった頃、父である村長はこういいました。

川上の村長

イペッ川の中流域の村長のところには女の子と男の子がいる。その男の子とおまえは許嫁いいなずけだ。

川上の村長

おまえはもう大きくなった。そのうちにその村に嫁入りしなさい。

しかし、それを聞いた娘は何故か、そのことにすごく腹を立てて怒ってしまいました。

女の私が旦那さんを求めて歩いていけというの!?

娘は結局、その村に訪ねていくことはしませんでした。

そのうちに村長とその妻は年老いて静かに息を引きとりました。

それからは息子と娘とは、両親を惜しんで泣きながら暮らしました。

何年かが経った頃、兄がこう言いました。

もう両親もいないし、お前ももう一人前の娘に成長した。許嫁のところに訪ねて行きなさい。

訪ねた先の家の人がおまえにもし嫌な態度を取ったなら帰っておいで。受け入れてくれるようなら、そのままその家で暮らしなさい。

…と、この話を毎日するようになりました。

(お兄ちゃんまで私を厄介ばらいするみたいに…。ぜったいに行くものですか…)

娘はそのことをやはり腹立たしく思いましたが、ある日の娘の夢に、神さまが現われてこんなことを言ってきました。

 

…娘よ、私の言う通りにしなさい…

おまえの両親は、おまえが幸せになったところを見届けたくて
何度も許嫁の話をしていた。
しかし、おまえはその話を聞くのを嫌がっていた。

しかし、おまえが嫁入りの話を嫌がったのは、赤いマムシの神が仕向けたことだったのだ。
マムシの神は妻を欲しがって神の国を探していたが、神の国にはふさわしい相手を見つけられなかった。
そこで人間の国を見回してみると、おまえの美貌、勇気に惚れた。

そこでおまえの縁談をおまえが嫌がるように仕向けたのだ。
おまえの許嫁も同じようにマムシ神の力で、
おまえを訪ねて来る気をそがれていたのだよ。

マムシは神々の目を盗んでおまえを自分のものにしようとして天から地上に降りてきている。

おまえが明日許嫁のところに出掛けていって、
ひとりになったところをつかまえて食べ、
神の国に連れていこうとして笑いながら準備をしている様子を見たのだ。

マムシの神は神力の強い悪神なので、どの神もかなわない。
そこでとても力の強いイヌエンジュの木の神に頼むことにした。

おまえが明日川を下っていくと、広い砂原がある。
その真ん中に大きなイヌエンジュの木が立っている。

決してその木を通り過ぎることをせずに、
その木に触りながら木のまわりを回って歩き、
マムシの神の襲撃に備えなさい。

マムシが襲って来ても、神々がおまえを守るから安心しなさい――

! ! !

夢…?でもこれはお告げだわ…マムシ神が襲ってくるって…

怖いよう…うえぇぇぇん、火の神さま、たくさんの神々、どうかわたしを守ってください…

娘は恐ろしくて泣きながら朝ご飯の準備をし、火の神や家の中にいる色々な神に自分を守ってくれるように頼みました。

ふあぁぁ、おはよう…

やがて兄も起きて来て食事をしました。

(お兄ちゃんはこのことを知らないのかな…それとも知っている…?わからない、でもあんまり言わない方がいい気がする…)

と不安になったので、娘は何も言わずに食事をし、自分が縫ったものを荷物にして、出掛ける準備を済ませました。

!行く気になったのか。

そうか、そうか。気を付けて行きなさい。くれぐれも、気を付けてな。

… … …

娘は口もきかずに出掛けてしまいました。

娘は川の土手を通って川を下っていって、自分の村が見えなくなるくらい下流にたどりつきました。

すると、夢で見た通りの大きな砂原があり、その真ん中には大きなイヌエンジュの木が立っていました。

その木に触りながら木のまわりを回っていると、突然林の中から薄赤い色をした男が現れました。

ははははは、ようやく追いついたぞ。

!!!

いやっ来ないで!神々よ、どうかわたしをお助けください…!

男が笑いながら捕まえようととするので、娘は木のまわりを回って逃げました。

娘は。神に助けを求めながら荷物を振って抵抗しました。

すると、男は怒気を顔にあらわし、みるみる大蛇の姿に変わりました。

いやああああ!

大蛇はイヌエンジュの木に巻き付いて、首だけで娘を食べようとするかのように追いかけて来きました。

娘はひたすら神々に助けを求めながら、木のまわりを回って逃げ続けました。

すると突然、ヘビが木に巻き付いたまま、頭がだらりとぶら下がって死んでしまいました。

(もしかして神々がヘビを罰してくれた…?)

そう思った娘は泣きながら走って逃げて川を下っていって、イペッの中流域の村に到着しました。

 村長の家と思われる家の前には、肉や魚の干したものを掛ける竿が並んで、食物がたくさんぶらさがっていました。

外はきれいにしてありました。

(みんな働き者のおうちだ…)

うぅ、疲れたよ…えええぇん…ぐすっ…ぐすっ…

娘は庭に荷物を置いて、そこで泣きだしてしまいました。

すると家から若い娘が出て来て、泣いている娘の姿を見るとうちに引っ込んで家の人たちと何やら話し始めました。

…じいちゃん、かぁちゃん…
…庭で女の子が泣いてるんだけど…

年配の人たち

… …それは大変だ… …

年配の人たち

…何があったかわからないが、とりあえず入れてあげなさい…

するとまたあの娘が出て来て、娘の荷物を持って手をひいて家に招き入れてくれました。娘が戸口のところで泣いていると、火のそばに来るように促された、炉の下座のほうに進んでいきました。

年配の老人

お嬢さん、どうしてこの村に来なすったね?

それが……

 娘が訪問のわけを話すと、年配の男性は火箸を取り、神々に祈り、娘の無事をよろこんでくれました。

年配の老人

…そんなことがあったのか。ああ、神々よ。どうかマムシの悪神を罰してください。

年配の老人

お嬢さんが無事で本当によかった。

年配の人たち

会えてうれしいわ。

そのうちに許嫁の男性が山猟から帰って来たので、舅になるおじさんは今までのいきさつを話し、娘がが許嫁であることを話しました

許嫁の男性

そんなことが…

年配の老人

明日になったら男たちを集めて、マムシ神を罰してきなさい。木の神に感謝の儀式も忘れずにな。

男性は承諾の咳払いをしました。

 翌日、娘の許嫁は村の男たちを集め、川を遡っていきました。

許嫁の男性

! あったぞ、イヌエンジュの木だ!

驚いたことに本当に大きなマムシが木からぶらさがって死んでいました。

許嫁の男性

…というわけで、木から下ろして細かく刻んで罰して来た。

許嫁の男性

イヌエンジュの神はマムシの攻撃で樹皮を剥がされ、無惨な姿をしていた

そうですか…

そうしてみんなは酒を出して木幣を作り、木の神が新しい着物を着ることができるように祈りました。

年配の老人

明日はお兄さんところにこの事を報告しに帰りなさい。今日はもうお休み。

 その夜に、また神が夢に出て来ました。

イヌエンジュの神も、新しい着物を着られたので感謝しています。
あなたの兄さんには、包み隠さずにすべてを話しなさい。
あなたの兄さんからも感謝されれば、神々はますます神格があがります。
あなたたちが子宝に恵まれるようにもしてあげましょう」…

イヌエンジュのカムイがよろこんでくれている…。ああ、よかった…!

許嫁の男性

…ああ火の神よ、ありがとうございます。~ ~ ~

(彼も同じ夢を見たの?)

そしてふたりで連れ立って、娘の兄のところに帰りました。

途中でマムシの悪神ウェンカムイに襲われたところを通ることを娘は恐ろしく思いましたが、木の神に感謝をしつつ通り過ぎました。

 

うぁぁぁん、お兄ちゃん、ただいまぁぁぁ

! どうしたんだ、いじめられて帰って来たのか

ううん、ちがうの

そんなことが…みんなが無事で本当によかった。ありがとうございます。

許嫁の男性

いえ、私は何もしていません。すべて神々の力です。神に感謝する儀式をしましょう。

そうして娘の兄と許嫁は一緒に神に感謝をする儀式をしました。それから1日か2日兄のところにいて、嫁ぎ先の家に帰って来ました。

そうして、兄が寂しい思いをしないように、兄にお嫁さんを見つけてきました。

そうして兄も幸せに暮らすようになりました。

嫁ぎ先の父と母が亡くなってから、その娘も結婚して、家の近くで暮らしました。

それぞれ子宝に恵まれ、お互いに訪ね合って仲良く暮らし、もう年を取ったので、昔あったことを話しますよ、とイペッの川上の村の村長の娘が物語りました。

おしまい、おしまい。

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補足や資料

この物語は元となる資料が途中で音声がとぎれていたり、娘の行動原理がよくわからなかったりしながらも過度な解釈を避けつつ構成しました、気になる方はぜひ元のお話しを読んでみてください。

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