【百歩蛇編】台湾原住民族の蛇婿入り伝説あらすじ6話~ルカイ族・パイワン族~

  • ブックマーク
  • Feedly
  • -
    コピー

このWEBコラムでは、蛇にまつわる台湾原住民族の民話を「あらすじ」でお届けしています。そしてこのページは蛇の種類が「百歩蛇」であると表現されている蛇聟(入り)譚を紹介していきます。『お話の筋は変えずに削る』方向性の再話ですので、元のお話の意匠は取りこぼしている可能性が大いにあります。気になった方は参考元の書籍もぜひお手にとってみてください。

百歩蛇ヒャッポダとは…】

【学名】Deinagkistrodon acutus
【分 布】台湾、ベトナム、中国南部
【飼育レベル】やや難しい

この種の和名は、台湾での呼び名である「百歩蛇」に由来したものであり、噛まれれば100歩以内に死んでしまうという意味がある。しかし危険な毒蛇であることには間違いないが、実際はほとんど人の死亡例はない。ちなみに主要原産国である中国での呼び名は「五歩蛇」であり、より大げさにみられている。(引用:動物百科事典より)

「頭目家の女バロンが蛇に嫁して池に身を投じたる話」あらすじ

昔、ダデル社の頭目人に「バロン」という女性がいた。彼女のところに、毎晩どこからか一人の美男が通ってきて

美男

私はダルパリヌ社の頭人である

と名乗った。ダルパリヌは、遠く東方中央山脈の鞍部にある地で、山背(台東方面)への通路にあたる土地である。

二人の仲は、だんだんと深くなり、ある日ようやく男がバロンを妻にした。

しかし、その男は、バロンから見ると堂々とした青年だったが、他の人から見ると大きくて太く長い百歩蛇ブーロンであった。

他の人はこれをバロンに言ったが、バロンは信じなかった。

蛇の青年は、底に蛇の模様のある二口付きのかめを持って、結納の品として収め、ついに二人は結婚した。

時が来て、バロンは配下に送られて、ダルパリヌの地に行った。

するとそこには家もなく人もおらず、ただ一つの大きな池があるだけだった。

その池の辺りには竹で編んだカゴカジャパル飯匙キジンがあり、そのカジャパルには炊き立ての温かいご飯が盛られていて、湯気がたっていた。

バロン

バロン

たぶん、私の夫となった人はこの池の主なんだわ。私は池に入ってそれを確かめてくる

バロン

みんなはここで待ってて。でも、ここにあるご飯が冷めるまでに出てこなければ、私は死んだと思って、あなたたちは帰ってちょうだい

と言って、身を躍らせて水中に入った。

そうして、配下たちはバロンの帰りを待ったが…ついにバロンは戻ってこなかった。

一同は、バロンを死んだものと思い、そのまま部落に帰った。

そして、前に男より与えられた結納の品である甕を見た。

それから、その甕はものすごい霊験のある甕であることがわかってきた。凡事の吉凶をこれで占うと明らかになったので、

重大なことはこれに聞いてその可否を決め、果ては裁縫するにも出猟するにもこの甕に尋ねた。

家人はこれをもって神霊であるとして、酒肉あれば必ずこれに手向けた。

そうするこその家の跡はダデルの旧社で、今は森となり、とが数代続いたが、その後、その頭人家が断絶し、その甕もまた壊された。

その家の跡はダデルの旧社で、今は森となり、「コワラバ」と称され、人がみだりに入ることはゆるされないのだという。

資料や補足

元の採集場所や文献ルカイ族隘寮群ダデル社…『番慣』第五巻ノ一 pp.200-202
制作者が参考にした文献台湾原住民文学選 ⑤ 神々の物語 紙村徹 編pp.329-330


ルカイ族とは…

ルカイ族の人口は1万1500人、屏東、高雄、台東の各県に分散する。伝統的に貴族と平民の階級に分かれており、百合の花が貴族の象徴とされる。平民の中では、純潔や勇気を認められた者にのみ百合を身につける栄誉が与えられる。
8月に行なわれる豊年祭では、男性が石板の上で粟餅を焼き、その焼けた様子によって翌年の収穫を占う。

台湾の原住民族文化

ルカイ族「バルン、蛇と契りて池に沈みし話」あらすじ

昔、マテヤサンにバルンという娘がいた。

あるとき、バルンは家族に向かって

バルン

わたしは今夜、夫を迎えます。決して松明を点さないでください。

と言った。

家族は不思議に思ったが、うっかり夜中、火をともしてしまった。

そして、バルンの床の上に一匹の大蛇がいるのを見た。

翌朝、バルンは籠に乗って出ていったので、家族はひそかにその後を追って行った。

すると、バルンはダルバリガンというところの池の中に入った。その時、バルンは石の上に笠を置いて言った。

バルン

わたしは池の中に沈めばこの笠はなくなります。

それまであなたたちはここで待っててください。

間もなくバルンは池の中に沈んでいった。

やや時間がたって、再びバルンは水面に姿を現した。そして

「マカルルサ」(水瓶)
「トゥタオタオン」(水瓶)
「コドルルル」(首飾り)
「モモリサ」(首飾り)

を家族に授け、

バルン

どうかこれを持って帰ってください。

バルン

それと、みんなが猟に来たときには。私は必ず食べ物を振舞うから、ここに来てください。

バルン

ただ、冷えたものは食べないで。

と言い残して、ふたたび水中に沈んでいった。

私たちが今、蛇を家に飾るのは、この故事によるのである。

補足や資料

元の採集場所や文献ルカイ族東ルカイ群タロマク社(大南社)…『蕃調』
制作者が参考にした文献「台湾原住民文学選 ⑤ 神々の物語」紙村徹 編pp.329-330


ルカイ族とは…

ルカイ族の人口は1万1500人、屏東、高雄、台東の各県に分散する。伝統的に貴族と平民の階級に分かれており、百合の花が貴族の象徴とされる。平民の中では、純潔や勇気を認められた者にのみ百合を身につける栄誉が与えられる。
8月に行なわれる豊年祭では、男性が石板の上で粟餅を焼き、その焼けた様子によって翌年の収穫を占う。

台湾の原住民族文化

「ルカイ族の昔話-バレン」丘陵民族

大昔ルカイ族の村からはなれた森の中には,蛇の神様が住んでいた.

ある日,蛇の神様はルカイ族のバレン姫と出会い,その日から,よく一緒に歌いながら,畑の仕事をしていた.そして,お互いだんだん好きになった.

バレンは両親に結婚の許しをもらうように蛇の神様を家まで連れてきた.しかし,人間と蛇との結婚なんて許せないことだとバレンの父親が考えた.

それで,バレンの父は海の中で最もきれいな琉璃珠と貴重な陶器を持ってくることを条件として蛇の神様と約束した.

バレンは忠実な心意を表すために百合の花を髪に飾り,蛇の神様の帰りを待っていた.3年経って蛇の神様はすべての宝物を揃ってやってきて,やっと結婚できるようになって,
蛇の神様はバレン姫を連れ遠い森の中に戻った.すると,百合の花が山の湖の周りにたくさん咲いた.

そして村の平和を長年にわたって守ってくれたという伝説がある.いまでもルカイ族は蛇を神様として尊敬している.

そして,少女やお嫁さんになる女性は百合の花を髪に飾っている.

(引用:「二重織技法の応用による作品制作―台湾の民話―」許尚廉, 松本美保子

補足や資料

元の採集場所や文献
制作者が参考にした文献「二重織技法の応用による作品制作―台湾の民話―」許尚廉, 松本美保子


ルカイ族とは…

ルカイ族の人口は1万1500人、屏東、高雄、台東の各県に分散する。伝統的に貴族と平民の階級に分かれており、百合の花が貴族の象徴とされる。平民の中では、純潔や勇気を認められた者にのみ百合を身につける栄誉が与えられる。
8月に行なわれる豊年祭では、男性が石板の上で粟餅を焼き、その焼けた様子によって翌年の収穫を占う。

台湾の原住民族文化

このお話の蛇は、「百歩蛇」言われていませんでしたが、ルカイ族やパイワン族の族長始祖神話のようなお話は百歩蛇であることが多いので、ここに組み込んでみました。

ルカイ族「霊蛇と婚したる女テキスムの話」あらすじ

むかし、本社のチャリスク家にテキスムという少女がいた。

同じ社に禁忌の地があって、そこには一匹の百歩蛇ブーロンが住んでいた。この蛇は、変身して男性の姿になり、テキスムを尋ねてきて、妻問いキスズ(夜這い)を行った。

この青年はほかの人からは蛇に見えていたが、テキスムには人と見えていた。蛇はテキスムに珠仔を与えて耳游財★となし、夫婦になった。

しばらくしてテキスムは妊娠して、月が満ちて何人か子を産んだが、その子はみんな蛇であったので、民たちは大いにおそれてテキスムたちを避けるようになった。

しかし、テキスムはその子どもらを人として扱い、愛して育てた。

テキスムは大きな蛇に乗って、子どもと一緒に禁地を訪れた。

わが子にキスズをなさしめたし。先に我が音雄より贈られたる珠仔を与えよ

と乞うた。

このことが家族たちにも知れ渡り、恐れて、民たちと共に遠くに逃げ去った。

テキスムはやむおえず禁地に引き返し、ついに霊になったという。

(パイワン族中部パイワン群カビヤガン社)

補足や資料

元の採集場所や文献(パイワン族中部パイワン群カビヤガン社…『番慣』第五巻ノ一p.204
制作者が参考にした文献
「台湾原住民文学選 ⑤ 神々の物語」紙村徹 編p.334

【パイワン】
パイワン族の人口は約8万4500人、ラバルとブツルの二群に分けられる。南部の中央山脈や恒春半島、 東南沿海地域に暮らす。琉璃珠(トンボ玉)や木彫、石彫などの高い技術を有し、また百歩蛇のトーテムで知られている。以前のパイワン社会は、貴族と勇士と 平民の三つの階層に分かれており、平民は農耕を行ない、勇士に昇格することができ、貴族は彫刻などの芸術活動に専念できた。パイワンの人々は、祖霊は大武山の上にいて5年毎に子孫に会いに来ると信じており、祖先の魂を迎える「五年祭」が重要な祭典となっている。

台湾の原住民族文化

(②のあたり)テキスムが産んだ蛇の子は複数のように読めましたが、そののちは複数子どもがいるのかどうかわかりませんでした。

(③のあたり)テキスムが大蛇に乗って子どもと共に禁地に向かったさい、蛇婿は一緒にいたのか(テキスムが乗っている大蛇が婿なのか?)よくわかりませんでした…。

(③のあたり)テキスムが「我が子にキスズをなさしめたし」というのは、『この子に妻問いをしてください』と言っているのか?それとも『財宝を与えてください』みたいな意味なのか?ちょっとよくわかりませんでした…。

「霊蛇と婚したる頭人家の女サルクヅの話」あらすじ

昔、本社の頭人デンチャヌ家が当社に家を建てた。そのとき家には一人のサルクヅという美しい少女がいた。

チャリグヅグヅと呼ばれtル森から、元の蛇カカツビアヌ(百歩蛇)が美男に化けて、妻問いキスズ(夜這い)に来た。

そして家に、多くの玉製の珠仔ポラ貝製の珠仔カタカタの入った一個の壺を与え、婿入りした。

夫婦相合して暮らすうちに、サルクヅは妊娠し、時が来て一人の子を産んだ。子どもの名前はラカラヌという。そのチャリグヅグヅからデンチャヌ家にかけて虹が出てた。婿は子供をともなって林中に帰った。

デンチャヌ家のあたりの地は雨がなくなり渓の水は涸れ、穀菜も育たなくなり、人畜がたくさん死んだ。

虹が出て、蛇が子どもと一緒に帰って以来は、風雨時に順い、人々は初めて蘇生した。

こういうことがあったので社民はその蛇を神霊なりとして、今に至るまでチャリグヅグヅの森は禁地として開墾していない。

かつて清国政府時代に土人ここに入って金鉱を採掘しようとしたが、雨がなくなって社民はこれを霊の祟りとして、はなはだこれを恐れたという。

補足や資料

元の採集場所や文献パイワン族中部パイワン群クナナオ社『番慣』第5巻ノ一 pp.204-205
制作者が参考にした文献「台湾原住民文学選 ⑤ 神々の物語」紙村徹 編pp.334-335

「百歩蛇と婚したコオイ」あらすじ

コオイという女は、百歩蛇と夫婦になっていたそうだ。

その夫は、夜は人になるが、昼は蛇だった。夫は竹籠のなかにいるらしいが、カゴは着物で覆われており、他人が見る事をコオイがゆるさなかったので、われわれ他人は見たことがない。

しかし、兄のサオロンは

サオロン

コオイが見せ惜しみするあれは何なんだろう

と思ったので、あるとき、コオイに水を汲みに行かせ、その隙に竹籠の中を見た。するとそこには百歩蛇が入っていて、

百歩蛇

なぜ私を見るのか

と言って、外へ出て行って南のほうの水の流れ込む穴に入ってしまった。

戻ったコオイは、蛇がいなくなっていたことに気づき、サオロンに尋ねた。サオロンは「なぜ蛇を籠に入れているのか」と聞き返した。するとコオイは

コオイ

まあ、それは私の夫だもの

コオイ

わざと私を外にやってその間に見たのね。私は夫と一緒に行きます

そういうようなことを言って、あとかたもなく言ってしまった。伝説はそう語っている。

(パイワン族南パイワン群リキリキ社)

補足や資料

元の採集場所や文献パイワン族南パイワン群リキリキ社『原語』pp.222-224
制作者が参考にした文献「台湾原住民文学選 ⑤ 神々の物語」紙村徹 編pp.338-339

全体的な補足~台湾の異類婚姻譚について~

台湾原住民の伝える異類婚姻譚において特徴的なところは、いわゆる蛇婿入りのモチーフが圧倒的に多いことであろう。しかも日本の記紀神話にある三輪山型神婚説話のタイプなのである。すなわち、ある女のところに夜毎よごと高貴な男が訪問する。女は男の素性を知りたいと思って策を弄するが、失敗して死んでしまうか、あるいは男に連れ去られて二度と帰還することはないとされる。台湾においてもっとも詳細に語られているものは、東ルカイ群タロマク社のものであろうが、同様の蛇婿入り譚はルカイ族やパイワン族の間で広く濃密に伝承されている。

このことはおそらくは、ルカイ族の間ではしばしば頭目家の系統の始祖神話の中に百歩蛇というコブラ科の毒蛇が重要な役割を果たしていることと密接に関連しているのだろう。また事実頭目家の始祖神話として三輪山神婚説話が語られるケースもある。

「台湾原住民文学選 ⑤ 神々の物語」 紙村徹 による解説 pp.487-488

他方で、蛇のイメージと同様の水生動物が婿入したり、夜這いをかけたりする話も多い。カエルやミミズ、魚、さらにはオタマジャクシの婿殿さえ登場する。確か韓国でもミミズの婿入りという説話が報告されている。

「台湾原住民文学選 ⑤ 神々の物語」 紙村徹 による解説 p.488
  • ブックマーク
  • Feedly
  • -
    コピー