このWEBコラムでは、蛇にまつわる日本の昔話を「トークノベル形式のものがたり」でお届けしています。人物の挿絵や状況描写イラストはイメージです。また、登場人物の台詞を現代的な言葉遣いに変更したり、制作者の解釈で付け足したりして再話しています。元のお話の意図を失わないよう意識しながらの制作に努めていますが、そういった営為は「解釈」ぬきには行えないことをご了承ください。利用した出典は明記しておりますので、気になる方はご活用ください。
※このコンテンツは、イラストや動画や、動くエフェクトが使用されています。通信環境の良いところでご覧になられることをおすすめいたします。また、アニメーションの影響で、まれにめまいを覚えられる方や気分が悪くなられる方もいらっしゃいます。体の異変を感じた場合にはすぐ視聴を休止し、安静になさってください。
はじまり、はじまり…
「蛇息子」物語
むかしむかし、富山の街に、おじいさんとおばあさんがいました。ふたりの間には子どもおらず、たったふたりで暮らしていました。
ある日、おばあさん蔵の中の米を出しに行くと、1匹の蛇の子がおりました。
へ、蛇じゃぁ~!じいさん、おじいさん!退治しておくれ~!
おばあさんはびっくりしておじいさんを呼んで、蛇を殺してもらおうとしました。
しかし、おじいさんは
蔵の中の蛇は殺すものじゃない
と言うので、二人は蛇を追い出すことにしました。
しかし、2人して箒で追い出そうとしても、蛇はなかなか出て行きません。
かえって、倉の隅っこでとぐろ巻いてしまいました。
…しかたない。このままでは死んでしまうし、米でもやっていっそのこと飼おう
はじめのうちは気味悪く思っていた二人でしたが、だんだんと蛇がなつくに連れて、じじばばも可愛く思うようになってきました。ついには「シドー」と言う名前までつけて、
シドー
シドー
と犬か猫のように可愛がるようになりました。
シドーもどんどん大きくなって、やがて一日に一生の米を食うようになり、幾年後にはとうとうとぐろを巻くと倉いっぱいになって、物の置き所もないようになってしまいました。
そのうえ、1日に三升ずつ米を食うので、おじいさんとおばあさんの働きだけではこれ以上飼っていくことができなくなりました。
このままシドーを飼うと、俺たちは日干しにならにゃならんぞ…
…仕方がないねぇ…シドーには暇を出そうかねぇ…
…それより他はあるまいて…
するとその夜おじいさんの夢にこんなお告げがありました。
…この蛇を根気よく飼うのです。
必ず楽に暮らせるようになります…
のう、ばあさん。夢でお告げがあったんじゃがな…
おじいさんは、夢のお告げのことをおばあさんにも話しました。
そういうことなら、辛いけど我慢してシドーを飼いつづけようかねぇ…
しかし、シドーはいよいよ大きくなって倉には入りきれないほどになるし、おじいさんおばあさんもすっかり貧乏になってどうにもならない有り様となりました。
のう、シドー。聞いてくれな…
… … …
お前がうちに来てもう何年経つかのう…。俺たちにとっちゃ子ども同然よ。お前のことが可愛くてしょうがねぇ。
でもな、お前の体はもう倉に入りきれなくなったし、それに俺たちも歳をとって働けなくなった。これ以上お前を養ってやることができんのじゃ…
それでな…。今日限りお前もここを出てどこかへ行って暮らしてくれ…。お前はでけぇ蛇じゃから、餌はすぐ獲れるじゃろうし…
ごめんよぅ、シドー…
… … …
シドーもよくわかったと見えて、そのままズルズルと這い出してどことも知らず行ってしまいました。
さて、富山の街には、神通川という、流れが急で昔から普通の橋を架けることができない川がありました。
ですので、神通川では「船橋」と言って、川の幅だけ船を並べてその上に板を敷いて渡るような橋がありました。
ある時その船橋のたもとに大きな蛇が現れてとぐろをまき、人が近づくと鎌首を立てて飛びかかりそうにするので、恐ろしくて橋を渡ることができず、町中は大騒ぎになりました。
そこで殿様はおふれを出しました。
この蛇を退治した者にはたくさんの扶持をやろう
また立て札にも書いて方々に立てさせました。
大蛇の評判は日増しに高くなって、やがておじいさんとおばあさんの耳にも入りました。
大きな蛇だって?もしかして、シドーじゃないかね…
そう思った思ったおばあさんは、船橋の所へ見に行きました。
ああ、家を出た時より大きくなってるけど、シドーと同じガラに見えるねぇ…
おばあさんは思い切って蛇のそばへ近寄っていきました。
すると、他の人間には鎌首をもたげて飛びかかりそうにする大蛇が、
おばあさんが近づくとだんだん頭を下げるではありませんか。
シドー。やっぱりシドーなのかい。
お前さんねぇ。こんなところでこんな姿をさらしてたら困るじゃないかい。
どこかへ姿を隠すんだよ。
そして大急ぎで家に帰っておじいさんにもその話をして、今度は2人揃って船橋のたもとへやってきました。
これシドーよ。お前がそんなところで人を怖がらせていると、俺たちまで人に憎まれるじゃないか。
どうか俺たち2人の頼みだから、どこかへ姿を隠してくれよ。
おじいさんが蛇に頼みますと、蛇は2人の前に頭を下げて聞いていましたが、やがてたちまちに身を動かして神通川躍り込みそのまま川上の方へ泳いでいきました。
5、6町泳ぎ上がると今度はまた借り上昇ってきて、おじいさんとおばあさんのいる前を通るときには川の中から礼をして、それからまたその大きな体を泳がせて川を下り大海へ入っていってしまいました。
お殿様はおふれの通り、二人一生安楽に暮らせるように扶持を下されました。
蛇のようなものでも長年飼えば恩を知って恩返しをするものだと言うことであります。
おしまい、おしまい。
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補足や資料
元の採集場所や文献 | 山梨県西八代郡九一色村『続甲斐昔話集』土橋里木 |
制作者が参考にした文献 | 柳田国男「日本の昔話」角川ソフィア文庫pp.51-55 |