ペルー・ボリビア・エクアドルのケチュア族に伝わる蛇婿入り(あらすじのみ)

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このWEBコラムでは、蛇にまつわるケチュア族(ペルー、エクアドルなど)の民話を「あらすじ」でお届けしています。『お話の筋は変えずに削る』方向性の再話ですので、元のお話の意匠は取りこぼしている可能性が大いにあります。気になった方は参考元の書籍もぜひお手にとってみてください。

ケチュア族民話「へびの恋人」

①年頃の美しい娘が、人間の姿になった青年と恋人になる

ある夫婦に、年頃の美しいひとり娘がいた。娘は毎日、山へ家畜の世話に出かけていた。

ある日、少女のところに、背の高い立派な若者がやってきて「恋人になってくれないか」と言うようになった。

娘も若者のたくましさに惹かれ、二人は恋仲になり、山で会うようになった。

若者は「私のためにいつも焼いた小麦粉を持ってきておくれ」と言い、少女も恋人のためにそのようにして、ふたりは一緒に食事をする日々を送っていた。

若者は、うつぶせになって歩き、走り、這いまわっていたが、少女の目には背の高い若者に見えていた。

②娘が妊娠したので、娘の家で暮らすことになるが、青年は両親には会おうとしなかった

あるとき、自分の妊娠に気づいた娘は、若者に「ふたりでわたしの家に行くか、あなたの家に行って住むか決めねばなりませんわ」と言った。

若者は「お前の家に行かねばならないだろう。」と言ったが、「お前の家の粉ひき機のそばの壁にくぼみがあれば、そこで昼も晩も過ごす」と告げた。娘にも「倉に泥棒が入るといけないから見張りをしている」と偽って、倉で寝るように言いつける。

娘は「両親に堂々と会ってくれないのか」と不審がるが、「そのうちに会おう」と言って、二人は娘の家で過ごし始める。

娘は粉ひき機を使わなくてはならないときは、娘が粉ひきをして、誰にも倉には入らせないようにした。

③娘の妊娠の真相を確かめようとした両親は、易者に頼る

しかし、娘が妊娠している様子に気づいた両親は、子どもの父親について聞き出すことにした。

しかし、娘は子どもの父親についてはまったく口を開こうとしなかった。

ついに出産の痛みに来る夜も苦しみだしたとき、両親は娘を倉で看病した。

蛇は、娘の血を吸って大きく太って赤くなっていたが、粉ひき機の下に穴をほってそこの上に娘が床を置くことで、両親の目からはのがれていた。

娘が父親について明かさないので、両親は自分たちで聞き込みをすることにした。村人のすすめで易者に占ってもらうことになった。両親はコカの束を持って、娘のことを占ってくれるように頼んだ。

易者はコカの葉で占いをして言った「あなたの家の粉ひき機の下に何かがいる。それが父親だ。それに父親は人間ではない。」「その中には一匹の蛇がいる」

「娘さんは、蛇を殺すことに反対し『恋人を殺す前にまずわたしから殺して』と言うじゃろう。そこでじゃ、娘ごを、歩いて一日くらいかかる遠い場所へやりなされ(安産の薬を買ってくるという名目で)。

そしてそれと同時人々を雇ってこん棒や山刀で武装させておいて、娘が行ったのを確認したら、粉ひき機の下の蛇をなぐりつけて殺せ」といった。

殺したら細かく切り刻んで、穴をほって埋めなされ」

④易者の助言に従い、両親は蛇殺害計画を実行する

そうして父親は、腕に自信のある人たちを10名雇い、易者に言われた通りにした。

娘のすがたが消えると、雇った男たちが庭に集まって、コカの割り前をもらって、しばらくかんだ後、倉に入った。粉ひき機の下には、易者の言った通りに蛇がおり「ワタックだ」と人々は叫んだ。

こうして、十人の男たちは蛇を殺した。

蛇をなぐりつけていたときに、娘がかえって来て、蛇が断末魔を上げているのを見て「なぜ私の夫を殺そうとするの!」とかばおうとし、そのとき叫びすぎて流産した。

すると蛇の子がうじゃうじゃと土の上に出てきたので、男たちはその蛇の子らもたたきつぶして殺した。

⑤後始末-蛇も子どもも埋められ、血は清められ、粉ひき機は捨てられた

そうして大蛇も蛇の子どもたちも殺され、地面に穴を掘って血を掃き清めた。家の中の血も取り除いて穴の近くに集められ、蛇もろとも埋めた。

粉ひき機は滝つぼに投げ込まれた。

すべてが元通りになると、父親は男たちに、その働きにふさわしい手当を私、みんなはそれを受け取ってかえっていった。

⑥両親の看病で回復した娘は、やがて幸せに暮らす

両親は娘を看病し、蛇と暮らすようになった理由を聞いた。「お前の夫は人間じゃなくて悪魔だったんだよ」と言った。

両親の手厚い看病で、娘は心身ともに回復し、それからずっと後になって立派な男性と結婚し、ふたりは幸福な生活を送った。

補足や資料

元の採集場所や文献ホセ・マリア・アルゲーデス「ケチュア族の民謡と昔話」95-104ページ
制作者が参考にした文献ラテンアメリカの昔話(民族民芸双書)三原幸久著 ,岩崎美術社,1972年pp.73-81


「ケチュア族はペルーを中心にエクアドル。ボリビアにも住むインディオ(原住民)であるが、かつてインカ帝国を建設した民族であるだけに古い文化と伝統を持った民族である。」

ラテンアメリカの昔話 (民俗民芸双書)p.82

ラテンアメリカでも、白人に伝承された動物婿入はすべて欧米型(男性が本当の動物ではなく、魔法をかけられた王子であり、最後には恋人の力で魔法が解けて人間に戻るという型)であるにもかかわらず、このケチュア族のものは、わが国の蛇婿入と同じ推移をたどるのは、インディオがアジア人種であるといわれているだけに、興味深い。pp.82-83

この話の翻訳元であるアルゲーデスの原書には、本話と類似した「コンドルの恋人」があり、それも、コンドルがケチュア族にとってはピュマと共にトーテム動物であるにもかかわらず、コンドルが殺されているそうです。

似たお話し

とにかく「蛇婿入り:苧環型」と似ている要素が多いですが、「蛇物語百」では、日本民話でかなり多いとされているこの話をまだ収録していません…。

取り急ぎ、ちょっと変わった似た話については

→ #蛇婿:苧環型

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