中国少数民族イ族に伝わる「蛇婿入り・苧環型」要素のある民話『龍の嫁になったマコニ』

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このWEBコラムでは、蛇にまつわるイ族(中国少数民族)の民話を「あらすじ」でお届けしています。『お話の筋は変えずに削る』方向性の再話ですので、元のお話の意匠は取りこぼしている可能性が大いにあります。気になった方は参考元の書籍もぜひお手にとってみてください。

「龍の嫁になったマコニ」あらすじ

①働き者で美人の「マコニ」という娘、母が知らない間に妊娠する

ラヘー村に暮らす母と娘がいた。娘のマコニ(イ族の言葉で「結婚しない娘」の意味)は美しく働き者で、多くの若者から慕われていた。

ある日、母親は、蕎麦の刈入れをするマコニに昼食を届けに行く。

しかし蕎麦畑で、娘は木陰で針仕事をしており、蕎麦の束の向こうから誰かが蕎麦麦を刈っていた様子だった。この光景を母親は不思議に思ったが、マコニは「刈入れは鎌に任せることにした」と言うだけだった。

しばらくして、マコニの腹が膨らんできたので、母親は娘をきつく問い詰めた。

「よくわからないの。三夜連続でおかしな夢を見てから、どうも体が変わり始めたの。パイナップルの葉のようなものがのしかかってくる夢だった」と言う。

母親は、それは龍の王子の仕業に違いないと思い責任をとってもらうために住処を突き止めようとする。

②マコニを妊娠させた龍の王子の住処を突き止める

そして母親は、『長い浅い糸を寄り合わせて、縫い針に通しておいて、大きな竹蓑を用意し、今度来たらその体に縫い付ける』ように娘に命じる。

数日後のある夜、マコニが目を覚ますと、1匹の龍が金色の鱗をキラキラさせながら、竹蓑にくるまっていたので、母親の言いつけ通り麻糸をその体に縫い付けた。

朝、龍の王子が立ち去ったので、麻糸とかすかな血の跡をたどって、その住処である村はずれの龍池までやってきた。

(マコニが市場の帰りに龍池の水を飲んだ時、龍の王子に見そめられていたのだと語られる)

③男の子が生まれる。龍の王子に「石二海」と名前を授かり、龍の王子は死ぬ。

9ヶ月後、男の子が生まれたので、名前を授かるために龍池を訪ねた。

龍の王子は針で心臓を傷つけられたので、間もなく死ぬことを言い残し、子供は石ニ海シィアーハイと名付けるように言った。

石二海は18歳になり、立派な青年に成長した。

④龍池で暴れ馬を手なづけ、息子に譲るマコニ

ある時、暴れ馬が色んな畑を荒らしているといううわさが流れてきた。あまりに暴れるので、その馬を手なづけた者がその馬ももらえるという話になっていた。

それを知ったマコニは、その馬が出没するという龍池へ様子を見に行く。噂通り馬がいたので、マコニは龍池の水をかけて2~3回擦った。

すると体中にこびりついた糞がたちまち1房の金の鈴に変わって、馬の首にぶら下がった。

マコニは上等な馬具を取り付け「龍馬りゅうば」と名付けて、最後に赤・黄・青の3色の綱を金のくつわにつけて(空を飛ぶこともできれば、海の上でも走れるようになり、地下を潜ることもできるようにして)息子の石ニ海に引き渡した。

そしてそれからと言うもの、石ニ海は毎日、馬に乗って空や海、地下を走り回るようになった。

⑤息子に結婚をするように言うマコニしかし、マコニの奮闘むなしく石二海は死んでしまう。

マコニは息子のために縁談を持ちかけ、昆明クンミン(現在の雲南城の省都)に行って望む人を探したらどうかと提案する。

翌朝、息子が出発する前に、マコニは馬小屋へ行って、空を飛ぶための手綱と地下を潜るための手綱を外し、龍馬の膝に烏骨鶏と黒犬の血を塗った(呪いをかけるのに使われるもの)。こうすれば、黄色の手綱(水の上を走るための手綱)を使って、滇池ディエンチ(昆明市の西部にある大きな湖)の上を渡って、瞬く間に往復できると思った。

しかし、出かけた息子は「うまく渡れず、日が傾いてきたので帰ってきたと」言った。

2度目、マコニはもうすこし高い位置までまじないをかけたが、余計に家を立った石二海は、夕暮れに帰ってきて、今回も渡れなかったといった。

「もう嫁さがしなんてどうでもいい。母さんさえいれば…」とあきらめる石二海に、マコニは最後にもう一度行ってくるように言う。今度は馬のアタマまで烏骨鶏と黒犬の血を塗る。

しかし、今回は、石二海が湖の中心まで進んだ時、龍馬が頭まで水に浸ってしまい、人も馬も溺れて死んだ。

⑥この海に荒波や渦巻がたつ由来・9つの大きな池の由来・ラへ―村が恵まれた気候になった由来

それからと言うも、、船がここまで来ると、荒波や渦巻きが立つようになった。

(「石家シージャア、石家、嶍峨人シアーレン、嶍峨人」と念じると滇池は静まり無事に通過することができた。)

息子をなくしたマコニは、悲しみで歯が9本も抜けてしまった。にもかかわらず、ごろつきやならずものがやってきては、執拗に結婚を迫った。

最後には9人揃ってやってきて脅してくるが、マコニはひるむことなく𠮟責し、体から1本の糸を繰り出し、9人のごろつきを縛り、あっという間に9匹の龍に変えた。そしてマコニが遠方を指すと大きな池が現れ、彼らはすべてその池に放り込まれた。

やがてマコニが死んだ後、彼女の髪の毛は松柏に、手や足は山谷に、体をやに、乳房は2つの小さな池になった。おかげで、ラヘー村は気候に恵まれ、木材や香、高陵土が取れるようになり、村の人々が豊かに暮らすことができるようになった。

補足や資料

元の採集場所や文献
制作者が参考にした文献張麗花・高明 編訳「木霊の精になったアシマ 中国雲南省少数民族民話選」pp.50-55


イ族とは…

中部に最も多くが居住。人口は約五百万人。言語はイ族語。火葬、鳥葬、土葬の文化がある。イ族を代表する「火把節(松明祭)」は、着飾った若い男女が松明を掲げて集い、夜どおし歌い踊る世界最大の集団見合いの場としてギネスブックに登録されている。

張麗花・高明 編訳「木霊の精になったアシマ 中国雲南省少数民族民話選」pp.4-5

中国の龍の起源はワニにあるのではないか(※)と言われているそうです…が、これも諸説あるようです。そして、このおはなしは日本における蛇婿:苧環型と共通するところがありましたので、紹介したく思いました。
(※)丸山 顕誠 「神話を読んでわかること」原書房2024,p.163

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