南イタリアの蛇の異類婚姻譚「蛇の王子さま」あらすじ―イタリア版リンドルム王

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このWEBコラムでは、世界の蛇の異類婚姻譚(日本以外)を「あらすじ」で紹介します。

イタリアの蛇婿「蛇の王子さま」あらすじ

子どものいない王と王妃、蛇の子どもを授かる。

子どものいない王と女王がおり、女王は日ごろから願をかけたり改悛の祈りをしたりしていたが、子どもはさずからなかった。

ある日、出かけた先の野原で色んな動物たちが子どもを連れているのを見た女王は、「どんな動物にだって子どもがいるわ」と言って、自分に子どもがいないことを嘆く。その時、小さな蛇の群れを引き連れた親蛇が通りかかったときに「たとえば蛇の子が産まれたって、わたしは満足するというのに!」と言う。

そこから女王は身ごもり、子どもが生まれるころになり、宮廷中が浮かれていたが、生まれたのは一匹の蛇であったので、宮廷の人間はみなうろたえる。

成長した蛇の息子は妻を要求するようになる。

皆がうろたえるなか、女王だけは、かつて自分が口にしたことを思いだして、蛇を自分たちと同じ食べ物を食べさせ、本物の赤ん坊のようにかわいがった。

蛇は日に日に大きくなり、かなり大きくなったある日、召使の女に向かって妻を要求する(「パパに言っておくれ、ここに妻をいれてもらいたいのだ、美しい金持ちの娘を!」)

この召使の女は驚いて、二度と蛇の入れられている檻には入りたがらず、次に女王が食事を運んできたとき蛇が同じように言ったため、女王は蛇に妻をあてがうことを考え出す。

蛇息子は妻となる人間の娘を殺害していく×2。3番目に嫁になる娘

悩んだ末、女王は小作人のひとりに「望みのものを与えるから、おまえの娘をゆずっておくれ」と頼むこととする。そして小作人の娘と蛇息子の結婚式が挙げられることになる。

2人は夜更けに寝床に入るが、蛇は4時ごろ目を覚まして「何時ごろだい?」と花嫁に訊ねる。

花嫁が「父さんが床から起きて、鍬をかついで、畑へ行く時間だわ」と答えると、「さては、お前は農夫の娘だな?」と叫んで、花嫁の喉笛に噛みつき殺してしまう。

翌朝、スープを持ってきた召使の女にむかってまた「パパに言っておくれ~」といって要求するので、それを聞いた女王は今度は向いの靴直しを呼んで、先の農夫の娘と同じような条件で結婚式が行われた。

が、今度は5時ごろ目を覚ました蛇は花嫁に時間を訊ねると、花嫁は「父さんが置きて靴の錨を打ち出すころだね」と答えたので、「さては、お前は靴直しの娘だな!」といって蛇は娘の喉笛をかみ切って殺す。

それで女王は、さる皇帝に娘をくれるように頼む。皇帝は妻に相談するが、この妻は娘の継母であり、なるべく早く娘を厄介払いしたいと思っていたので、娘を蛇の嫁にやることに賛同する。

娘は、亡き実母の墓の前で泣き、そこで助言を得て、無事蛇の王子と初夜を迎えることとなる。蛇の王子は美しい若者になる。

皇帝の娘は、実の母親の墓の前に額づいて、母親にどうしたらよいのか尋ねる。すると、墓の中から母親が「相手が蛇でも結婚するのですよ。娘や。ただし結婚式の日には服を七枚重ねて着るのです。そしていよいよ寝床に入るときになったら、ひとりで服を脱ぐから召使はいらない、と言うのですよ。蛇と二人だけになったら、こう言ってやりなさい。《あたしが一枚脱いだら、あなたも脱ぐのよ》」それを繰り返して、次々に皮を脱がせてしまうように、と助言を与える。

そして、それを実行した皇帝の娘は、蛇の皮を次々と脱がせることに成功した。そして七枚目の皮を脱ぎ捨てた時、蛇は今まで見たこともないくらい美しい若者になった。

花婿は二時ごろ花嫁に時間を訊ね、花嫁が「お父様がお芝居から帰って来るころだわ」と言い、しばらくしてまた尋ねると「お父様が晩餐を召し上がっているころだわ」といい、夜明けにまた尋ねると「お父さまがコーヒーを入れさせているころだわ」と答えると、王子は花嫁を抱きしめて

「きみこそぼくの花嫁だ」と言う。そして、夜中に自分が人間の姿に戻ることを口外してはいけない、破ると二度と会えなくなる、と言う。

蛇王子に人間のままでいてほしいと思った花嫁、奮闘する。

ある晩、蛇の王子は「昼間も人の姿になってほしかったら僕のいうとおりにしなければならない」と言うので、花嫁は承諾する。蛇の王子は

「毎晩宮廷で開かれている舞踏会に行って、誰からの踊りの誘いも受けず、赤い衣装の騎士が入ってきたらそれその騎士と踊るように。その騎士は自分なので」と言う。

舞踏会が開かれ、多くの王子や侯爵の誘いを断って、赤い衣装の騎士と踊った花嫁。しかし、王と女王は断った他の男性たちに面目が立たないという理由で花嫁の髪を掴んで叱る。

その夜、花嫁がそのできごとを蛇に伝えると、蛇は「3晩はこの苦しみに耐えなければならない」と言い、明日は黒い衣装で行く、という。

次の晩も同じようにした花嫁を、王と女王は杖で折檻する。

3目の晩は修道士の姿で来るといった蛇王子だったが、

3番目には、屈辱に耐えきれなくなった王が、会衆の前で花嫁と修道士を杖で殴りつける。修道士姿の蛇息子は一羽の鳥に姿を変えて飛び去っていく。

花嫁は、王が打ったのは自分の息子であったことや、それが人間の姿にする手立てであったことなどを説明すると、王は悔しがって嫁に赦しを乞うた。

花嫁は去った夫を探しに旅に出る。

花嫁は夫を探しに金貨を二袋掴んで鳥の跡を追う。

途中で、あの鳥にガラス細工を壊されたガラス職人や、金細工を壊された金細工師に会ったので、「あの鳥はあたしの鳥なのですから」と言って弁償して、鳥の跡を追う。

やがて大木のもとに泊まっている夫の鳥の姿を認めた王女は一緒に帰るよう懇願するが、他の鳥の助言もかまわず妻の目をえぐってしまう。妻が鳴くとさらに目をえぐって、妻は両目が見えなくなり、さらに泣くと今度は両手をもぎとってしまう。

そして鳥は飛び去って宮廷に戻る。(女王は「おまえは良い事をしましたね、あのふしだらな女を殺してくれて!」と喜んだ。)

妻は手探りで歩いていると、一人の老婆に巡り合ったので身の上を話す(語り手によると、それは聖母マリアの仮の姿である)

老婆に勧められるがままに泉の中に手を入れて顔を洗うと、両手と両目がもとに戻った。そして、「この杖は何でも願いがかなえられる」と言って杖を持たせた。

妻は王の宮殿に戻り、美しい宮殿を立てるよう杖に命じる。

翌朝、自分の宮殿の前にきらびやかな宮殿が建っていることに気づいた蛇王子は、父親に「たった一晩でこんなに立派な宮殿を建ててしまうなんて、よほど偉い人にちがいない!」といって、宮殿のヴェールから顔をのぞかせた娘に求婚しようとする。

蛇王子は黄金の刺繍や指輪を召使にもっていかせようとするが、娘はそれをことごとく使いの目の前で打ち捨ててしまう。召使たちは、恥をかくのでもう贈り物を持っていきたくないと言うので、蛇王子は棺を作らせてその中に自分が入り、向いの宮殿へ運ばせる。

棺が運ばれて、娘が棺の中をのぞくと、蛇王子は「ぼくの妻だ!また会えて嬉しいよ!ぼくらの宮殿に戻ってきてくれてよいだろう」と言う。

娘は、険しい目つきで「ご自分のなさったことを覚えていないのですか?」と王子を問い詰めるが、王子は「ぼくは魔法にかけられていた」であるとか「そうしなければぼくは蛇のままでいなくてはならなかったのだ」であるとか「そうしなければぼくは鳥のままでいなければならなかったのだ」であるとか言う。

しばらくの間考えた娘だったが、やがて「そういうことならば仕方ない」と得心して、元通りの夫と妻になるよう承諾した。

王と女王は、いままでのことを聞いて、娘に赦しをもとめbながら、彼女の父親の皇帝を招いて、まる一か月音楽をならして踊りつづけた。

(カラーブリア地方)

補足や資料

元の採集場所や文献Il Re serpente (DIFR.1,U figghiu serpenti)
話者:採集者ディ・フランチャの姉テレーザ
制作者が参考にした文献ワイド版 岩波文庫「イタリア民話集(下)」p.129‐141より


雑な感想ですが、花嫁は健気で筋が通っているように感じました。その分、最後に夫も王も王妃も許してしまう不可解さが目立つように思いました。

「カラーブリア版から、すでに知られたエピソードである蚤の皮の試練は取り除いた」(参考書p.350より)だそうです。

トスカーナ、べネヴェント、シチリア、またモンフェッリーナの各地方では蛇ではなく竜になるそうです。(参考書p.350より)

世界最古の民話集はイタリアで編纂されたものだそうで、そこに収録されている異類婚姻譚といえば「豚王子」なので、イタリアで一番有名な異類婚姻譚と言えば「豚王子」なのかもしれません。ただ、このお話は豚王子とも同じタイプのお話で、よく似ています。

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