このWEBコラムでは、蛇にまつわる日本の昔話を「トークノベル形式のものがたり」でお届けしています。人物の挿絵や状況描写イラストはイメージです。また、登場人物の台詞を現代的な言葉遣いに変更したり、制作者の解釈で付け足したりして再話しています。元のお話の意図を失わないよう意識しながらの制作に努めていますが、そういった営為は「解釈」ぬきには行えないことをご了承ください。利用した出典は明記しておりますので、気になる方はご活用ください。
※このコンテンツは、イラストや動画や、動くエフェクトが使用されています。通信環境の良いところでご覧になられることをおすすめいたします。また、アニメーションの影響で、まれにめまいを覚えられる方や気分が悪くなられる方もいらっしゃいます。体の異変を感じた場合にはすぐ視聴を休止し、安静になさってください。

はじまり、はじまり…
「マッタブ聟入」物語
むかし、むかし。
あるところで「作太郎」というおじいさんと、「ウトク」というおばあさんがいました。

今日は畑に芋を掘りに行ってくるよ。日が暮れるまでには帰るからねぇ。

夜には雨が来るみたいだから、早めに帰って来るんだよ。
ウトクは、作太郎と3人の娘を家に残して、畑に芋ほりに行きました。
すると、急に大雨が降ってきました。


なんてことだい、もう雨が降り始めたのかい。

…いや、でももう少し芋を掘らないと、家の食べ物がもうないからねぇ…
そうこうしているうちに、乾いていた川が満水になり、ウトクおばあさんはお芋をいっぱいかついだまま帰れなくなってしまいました。

そうしているうちにも、どんどん日が暮れていきます。

ああ、家ではじいさんや孫娘たちが待っているのに。早く帰らないと心配させてしまう…
するとそこに、太い尾のアカマタ(※)が出てきました。

(※)アカマタ…奄美諸島と沖縄本島やその周辺の島にすむヘビ

こんなところで何をしているんですか?
アカマタはウトクばあさんにたずねてきました。ウトクばあさんは

実は…大雨が降って川が渡れなくなったのです
と、アカマタに事情を説明しました。するとアカマタは

…あなたは年頃の娘を持っているか?
とたずねてきました。ウトクおばあさんは

娘夫婦はもう亡くなってましてね。でも孫娘は3人います。みんな年頃ですよ。

なら、今から私はがあなたを川の向こうまで送り届けよう。そうしたら、娘のうち一人を私のため嫁にくれんか?

いいですよ
アカマタとの取引をしたウトクおばあさんは、アカマタの背中に乗って、川を渡りました。そして、無事に家に戻りました。


ウトク!心配したぞ

ウトクばあ、無事でよかったぁ!
家族は心配していましたが、ウトクおばあさんの無事を喜びました。そしてウトクおばあさんは、アカマタの話しを家族にしました。
そして、一番上の娘「初子」に言いました。すると初子は

初子、初子、あんたアカマタの嫁さんにならないか?

!?
そんなの、いやです!

アカマタの嫁さんになるくらいなら死んだ方がいいわ!
今度は二番目の「アグリ」に聞きました。すると、アグリもまた、

アグリ、アグリあなたはアカマタにもらわれてくれないか?

まぁ、いやです!アカマタの嫁さんだなんて、無理です!
と言いました。
ウトクおばあさんは仕方なく、一番下の娘「アイコ」に言いました。

アイコ、アイコ。姉さん二人は私の言うことを聞かない。でも、アカマタは私の命を助けてくれた恩人なんだよ。だからこうして芋をたくさん持ってくることができた…お前アカマタに嫁にもらわれてくれないか?
するとアイコは

…おばあちゃんは親みたいに私たちを大事にしてくれてる。親の言うことであれば、仕方がないわ。
…と、承知したそうです。

あくる日、アカマタは背の高い好青年に化けてきました。

約束通り迎えに来た。

… … …。

ああ、アイコ…。どうか達者で。

アイコ、手を出しなさい。
そして、嫁いでいくとき、婆さんはアイコに小豆を一握りもたせました。


アイコ、あんたが行く先々にその小豆を落としていきなさい。
と言って、アイコの手に小豆を持たせました。

その豆が実るころ、私たちは会いに行くからね…。
そして家から送りだしたそうです。

そして小豆の芽が出て、実のなる頃にばあさんはその小豆をたどって行ったそうです。
小豆をたどって行った山の中は、大きくて立派な家がありました。


あなた。小豆の芽が出てきたから、そろそろ母さんと父さんたちが訪ねてくるかもしれない。ごちそうを振る舞いたいから、ヤギを絞めましょう。

もうそんな季節になったか。ヤギもいいけど、ハブ酒なんかもいいんじゃないか。

よし、マジムンとってこよう。

毒には気を付けてね。…もし困っている人を助けても、もうお嫁さんを要求しちゃダメよー。
二人はそこで何不自由ない生活を送っていたそうです。
そうであるから、親の言うことは聞けよ、というお話しでした。
めでたし、めでたし。
おしまい。

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補足や資料
元の採集場所や文献 | 大島郡笠利町手花部・吉永ミサ さんの語りによる(『奄美・笠利町昔話集』〈マッタブ聟入り(ホ)〉) |
制作者が参考にした文献 | 奄美文化を探る―福田晃「水乞い型蛇聟入りの古層―南島の伝承を基軸に」pp.115-117 |
笠利町(かさりちょう)は、鹿児島県の奄美大島北東部にあった町。大島郡に属した。2006年3月20日、名瀬市および住用村と合併して奄美市となり、奄美市の地域自治区となった[1]。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%A0%E5%88%A9%E7%94%BA
このお話を聴いた際、福田晃氏は「そのあとどうなるのか?」と質問したそうですが、吉永ミサさんの答えは「この話はこれで、めでたしめでたしで終わりです」と答えられ、これは祖母さまが語ったままの語りである、言われたそうです。福田晃氏は、これを〈水乞型蛇聟入り〈単純婚姻型〉と呼んでいます。(上記参考文献 p.117~)
元のお話しでは、「ウトクお婆さん」と「作太郎おじいさん」「3人の娘」という表現でした。娘たちは年老いた夫婦の子どもたちである…という可能性もありましたが、「ウトクと作太郎は娘夫婦を亡くしていて、孫3人を育てている」という解釈にしてみました。
最後、蛇聟は人間になっていたのか蛇のままだったのか、元のお話からは不明です。小澤俊夫氏の論によると、日本の昔話における動物は自由に人間の姿をとることができる(人間は、動物が人間社会に訪問して求婚してくること自体はおどろかない)ことができる傾向があるそうなので、自由に姿を変えているような様子を取り入れてみました。
「アカマタ」は蛇を食べることがある蛇だそうなので、『ハブを狩る』という台詞を入れてみました。『マジムン』というのは沖縄県や鹿児島県奄美群島に伝わる悪霊(妖怪)の総称ですが、奄美地方ではハブのことも総じてそう表現するらしいです。
「アカマタ」は気性が荒いそうですが、元のお話しから受ける印象がそうでもなかったためさわやか目な青年で描いてみました。気性の荒いマッタブ聟譚も面白そうです。