このコラムでは、「神話」「伝説」「民話」「昔話」とは何かというのをつかむために役立ちそうな情報をまとめてみます。ここで紹介するのは今日の学術的な定義であり、そういったものには得てして方法論の違いや立つ立場の違いによりいくつか分岐するとは思います。
参考資料をいくつか眺めてみることで、現時点での妥当な定義あ解釈というのが掴めるのかなぁ…と思っています。。
ざっくりとした定義として…山田仁史「新・神話学入門」より
形態 | 例 | 信仰 | 時代 | 場所 | 態度 | 主要人物 |
---|---|---|---|---|---|---|
神話 | 旧約聖書ー創世記の天地創造やノアの洪水伝承など | 事実 | 遠い過去 | 異界または今より古い世界 | 神聖 | 非・人間 |
伝説 | アーサー王伝説,ジークフリート伝説,弘法大師の植えた木や休んだ場所など | 事実 | 近い過去 | 今日の世界 | 神聖または世俗 | 人間 |
昔話 | 桃太郎,赤ずきん など | 虚構 | いつでも | どこでも | 世俗 | 人間または非・人間 |
当ウェブサイトはおおむねこの分類における「昔話」の一部門として「民話」と言う用語を用いることが多いです。琉球文化(奄美・沖縄地方の文化)は、この定義にきれいにあてはまるわけでもなく(本州では「昔話」扱いのお話が、どちらかというと「伝説」になっていたり、「神話」だったり…)、またアイヌの民話(ウウェペケレとユーカラとカムイユカラのちがいなど…)一筋縄ではいかない分類のものも多く、なかなか難しい問題ではありますが、とりあえずはこの表の定義をざっくりと頭に入れていただければさしあたり問題ないと思います。
もう少し詳細な分類として…福田晃「民話とは何か」
伝承者 | 伝承の機会 | 伝承意識 | 証拠 | 時制 | 固有性 | 叙述形式 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
神話 | 司祭者 | 祭儀 | 疑えない事実 | ナシ | 神の世 | アリ | アリ |
伝説 | 古老 | 祭儀の周縁 | 信ずべきコト(信仰行為) | アリ | 古へ世・中つ世 | アリ | ナシ |
語り物 | 専門的語り手 | 祭儀の周縁 | あったとされる史実 | ナシ | 中つ世・近つ世 | アリ | アリ |
昔話 | 語り爺・語り婆 | イエの炉端 | あったかなかったか不確かな虚構 | ナシ | 遠い昔 | ナシ | アリ |
世間話 | 世間師 | 談合の場 | あったことが疑えない事実 | ナシ | 近代 | アリ | ナシ |
…もう少し詳細…
主題 | 観念 | 思想 | |
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神話 | 国土・人類・文化の起源 | 大自然の営みを畏怖する観念 | 大自然の始原を尊ぶ思想 |
伝説 | 聖なるコト・モノの由来 | 小自然の変異を畏怖する観念 | 小自然の起源・崩壊を恐れる思想 |
語り物 | 異常な不幸 | 人間存在の可能性を否定する観念 | 人間の不幸を確認する思想 |
昔話 | 異常な幸福 | 人間存在の可能性を肯定する観念 | 人間の幸福を確認する思想 |
世間話 | 奇異・不思議な現実 | 人為・社会に畏怖・驚嘆する観念 | 人間・社会の現実を見極める思想 |
ここで紹介されている「神話」の観念・思想については、いわゆる『自然宗教』を念頭に考えられているもののような気がするので(つまり、アブラハム宗教-ユダヤ教・キリスト教・イスラム教)に関しては少々枠からはみ出てしまう定義のような気がしますが、日本の文脈でものごとを考える出発点としてはよいのかなと思います。