タモギタケが食べられることを教え、マムシを無闇に殺してはならないことをアイヌに説いた神

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このWEBコラムでは、蛇にまつわる日本の昔話を「トークノベル形式のものがたり」でお届けしています。人物の挿絵や状況描写イラストはイメージです。また、登場人物の台詞を現代的な言葉遣いに変更したり、制作者の解釈で付け足したりして再話しています。元のお話の意図を失わないよう意識しながらの制作に努めていますが、そういった営為は「解釈」ぬきには行えないことをご了承ください。利用した出典は明記しておりますので、気になる方はご活用ください。

※このコンテンツは、イラストや動画や、動くエフェクトが使用されています。通信環境の良いところでご覧になられることをおすすめいたします。また、アニメーションの影響で、まれにめまいを覚えられる方や気分が悪くなられる方もいらっしゃいます。体の異変を感じた場合にはすぐ視聴を休止し、安静になさってください。

はじまり、はじまり…

アイヌにタモギタケを授けたマムシ神」物語

あるところに、たったひとりで暮らしている男がいました。男は自分以外の人の姿を見たこともなく、ひとりで山猟をしながら暮らしていました。

ある日、西の方に、煮炊きの煙が上がっている大きな家があるのが見えました。

?あんなところに家なんかあったか…?煙も上がっているし、誰か住んでいるようだ…

それから2、3日の間、雨が降りました。雨が止むと、男は急にあの家に行ってみたくなりました。

男は準備をして出かけて行き、その家の前まで着きました。

…遠くからでは見えなかったが、近くまで来ると家の外まわりがきれいに掃き清められているのがわかる。手入れが行き届いてる、良い家だ。

そうしているうちに、家の中から背が小さくて色の黒い、目つきの鋭い少年が出て来ました。

少年

いらっしゃい。どうぞ、入ってお休みください。

男は、誘われるまま家に入ってかしこまっていました。すると少年がこんな事を言います。

少年

実は、あなたをここに呼んだのは私なのです。

呼んだ?いや私は自分が来たいと思ったから来たのですが…

少年

まあまあ。理由をお聞かせしましょう。

そうして少年は編み袋を持って外に出て行き、家の外に生えている木から何かを取り、それを袋に入れて戻って来ました。

少年は鍋でそれを煮始め、できた料理を男に差し出しました。

少年

まずはこれを食べてみてください。

(あのキノコは…家の周りで生えているのを見たことはあるが、触ったこともない。食べるのは正直恐ろしいが…しかし少年も自分でどんどん食べているし…大丈夫か)

男も汁をすすってみたところ―

!う、うまい…!

―とてもおいしかったのですっかり食べきってしまいました。

マムシ神

じつは私は天から降ろされたマムシのカムイなのです。

マムシ神

今、あなたにお出ししたキノコは「タモギタケ」と言います。これは私たちにとっては食糧なのですが…人間たちはこのキノコが食べられるということを知りません。あなたも、外にたくさん生えているあるのに、食べずに腐らせていたでしょう。これからは食べるようにしてください。

マムシ神

これで、私があなたに害を与えようとしているのではないことがわかったと思います。そのうえでもう一つ伝えなくてはならないのが…

マムシ神

マムシをやたらと殺してはいけない、ということです。マムシの中には悪さをするものもいますが、悪さをしないものもいます。悪さをしないものを叩いてはいけません。

マムシ神

私があなたをここに呼び寄せた理由はそういうことなのです。

男は感謝をして家に帰りました。そして家に帰ってからタモギタケをシカやクマの脂身と一緒に煮て食べ、火の神に感謝の祈りを捧げました。

そして夜になって外に出てみると、不思議なことにあの少年がいた家がなくなっていました。


 

それからしばらくすると、男の家には人が来るようになりました。

…このキノコはタモギタケと言って、食べられるんだ。脂身と一緒に煮るととてもうまいんだよ。

あと、マムシの神を無闇に痛めつけてはならない。マムシ神には悪い神もいるが、悪さをしないものもいるんだ。悪さをしないものを叩いてはいけない。この旨いタモギタケが食べられることを教えてくれたのも、マムシのカムイなんだ…

こんなありがたい話を聞かせてえてもらえるとは思わなかった。

ほんとうね、私たち家族もこの近くで住みましょうよ。

そうしているうちに少しずつ近所に家が増えていき、やがてにぎやかな村になりました。

それからもマムシの神の教えを人々に伝えながら年を取って死んでいくのです、とひとりの男が物語りました。

おしまい、おしまい。

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資料や補足

元の採集場所や文献
制作者が参考にした文献C048. アイヌにタモギタケを授けたマムシ神
アイヌと自然デジタル図鑑

タモギタケとは…タモギタケ(たもぎ茸、楡木茸、学名:Pleurotus cornucopiae var. citrinopileatus)はヒラタケ科ヒラタケ属のキノコ。鮮やかな黄色の傘が特徴。ニレの倒木などにはえる。他のヒラタケ類と同じく、木材腐朽菌である。野生下ではニレの木に発生することが多い。

ロシア東部、中国北部、日本などに自生する。北海道では一般的だが、本州以南では発生量が少ない。これはタモギタケが発生する樹種の分布域が北方よりであることによる。また、本州ではニレ属よりもトチノキの枯れ木や倒木に発生する。

(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipediaタモギタケ項目 2022/3/16日本時間15:39 時点より』)

タモギタケは「ダシキノコ」と呼ばれるほどうまみが強く、「エルゴチオネイン」というキノコなどの菌類や一部の細菌のみが合成できる成分抗酸化作用を多く含むキノコだそうです。(参考:株式会社アスリー「たもぎ茸について」より)

元のお話は男の一人称で進んで行きますが、このコンテンツでは三人称に変更して構成しました。

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